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「妊娠中のため、飲む物は制限されてしまいます。ですので、消去法でレモン水を頼んでます」
「そうか。そうなのか」
意味ありげに納得していたが、反対に姫宮は別な意味で首を傾げることになった。
姫宮の質問に答えるのではなく、質問で返されてしまった。
ここまでアルファという性は、人の話を聞かないのだろうか。
"あの人"も、さほど口数が多いというわけでもなかったし、大した会話をしてこなかったが、その中でも、一方的な面もあったような気がする。
とはいえども、御月堂が言っていたように、毎日ではないとはいえ、レモン水ばかり摂取していては、あまりに栄養が偏ってしまい、大事な依頼人の子どもに影響を受ける可能性がある。
今度からは、違う物でも頼もうか。
気持ちが落ち着かなく、それに御月堂が飲み終えてしまったのもあり、残りを口に含んでいると、妙に視線を感じ、目線を上げると、何故かじっと見つめていたのだ。
「あの⋯⋯何か?」
「いや。なんでもない」
ふいと、視線を逸らす。
どうしたのだろうと思いつつも、待たせてはならないと飲んでいた時、もしかしてと思い、ストローから口を離す。
「御月堂様。もしかして、先ほど私が意味もなく見ていたという無礼な行為に、何か言いたいことがあるのですか」
「そうではない」
「では、お仕事があるので、早く飲んで欲しいということですか」
「いや、いつもより遅い。ゆっくり飲め」
「はぁ⋯⋯」
手持ち無沙汰なのか、気を遣ってなのか、ポケットから携帯端末を取り出し、弄っていた。
なんなのだろうか。自分が言うのもなんだが、御月堂の心情を汲み取れない。
仕事がゆっくりとはいえども、長く待たせるのは失礼だと、ストローを口に付ける。
そうして束の間、ズズズと飲み終わりの合図だと言わんばかりに音を立てた時、御月堂がおもむろに立った。
「帰るか」
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