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「⋯⋯それは偏見というものだ」 御月堂がおもむろに口を開いた。 「どんな性であろうが、どんな地位の人間であろうが、どのような店に行ってもいいはずだ。お前はそうやって人を推し量るのか」 「いえ、そんなわけでは⋯⋯」 咄嗟に否定してしまったが、つい口にしてしまったことが怒りに触れてしまった要因だ。何を言っても言い訳になる。 腹の上で拳を作り、唇を噛んでいた。 「⋯⋯本当は、お前のために探してもらった所だ」 「⋯⋯え?」 思わず顔を上げると、こちらを見ていた御月堂が話を続けた。 「きっと私とお前の感覚は違う。いつもの場所では、落ち着かないのかもしれないと思ってな。入りやすい場所を松下に探させた」 ふわりと暖かなものが胸に落ちた気がした。 その感情は何なのか。──いや。気づいては、このようなことで心を動かされてはいけないと、己を制した。 たしかに、今まで行っていた場所は、自分のような人間が行ってもいいのかというのもあったが、それよりも今日訪れた場所よりも遠かったため、行く度に疲れていたというのもあるが。 しかし。ここを訪れる前の散歩の時を思い出す。 一歩先に歩いて、その歩幅を合わせるのに必死だったものが、やや早いままであったものの、御月堂から合わせようとしていたことを。 今回の場所を含めて、彼なりの気遣いだったことに気づく。 根本的には、将来の子どもに繋がるからしていることかと思われるけれども。 「ありがとうございます」 「礼を言われるほどでもない」 素っ気ない返事をした後、「何を頼むんだ」と催促され、いつもとは違う物を頼んだ。 互いの頼んだ物が運ばれてきて、一口飲み、ひと段落した頃。 「住まわせてもらっているマンション周辺に、このような喫茶店があると知りませんでした」

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