51 / 106

51.

窓の外を見ながらそう切り出すと、「そうだな」と返事がした。 このまま話が続くかと思いきや、それっきり話が返ってこない。 違う話題を振るか、それとも話をするのが面倒そうであれば、今までのように黙ってお茶を飲んでいようかと、あれこれ思考を巡らせている時。 「⋯⋯この辺りは比較的、自然に触れられる機会があるな」 思考していた頭から御月堂に意識を向ける。 遅れて、「はい、そうですね」と相槌を打った。 ここで話を終わらせてはならないと、姫宮は話を続けた。 「安野さんとの散歩の時、マンション近くの公園に行くのですが、そこも一瞬都会だと思えないほど、木々がたくさん植わっていて、癒されるんですよ」 「そうなのか」 「はい」 無視されるかとどぎまぎしていたが、ちゃんと言葉が返ってきて、ホッとした。 と、その時、内蔵を蹴られたようで、「うっ」と小さく呻いた。 「どうした」 「あ、いえ。御月堂様のお子さんが蹴られたようで、その時内蔵が当たって、声を出してしまいました。失礼しました」 「ならばいいが」 御月堂が珈琲を口付けたのを、反射で姫宮も口付ける。 姫宮がグラスを下ろしたタイミングで、彼は口を開いた。 「母胎にいても、蹴るものなのか」 「はい。寝ていることが多いのですが、寝ぼけていたり、夜が活発になるのですが、そういう時が比較的蹴ってきますね」 腹部を優しく撫でると、もぞもぞと動いているのを感じた。 「今日はもしかしたら、御月堂様の声に反応をしているのかもしれませんね。一緒にいることが増えましたから、私との声が判別出来て、お父様だと分かっているのかもしれません」 いずれの父親となる人に渡す、姫宮との別れの時。 また独りになってしまうが、この子が無事に産まれてくれるのなら、幸せに思える。 「⋯⋯話しかけてみてもいいか」 自身の感情に浸っていた時、御月堂がそう言ってきた。

ともだちにシェアしよう!