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遠くを見ていた視線をこちらに向けた。 「お前は、私の会社で開発したオメガ用の抑制剤を知っているか」 「はい。私自身服用させてもらってますが、今までの服用したどの抑制剤よりもよく効いてます」 仕事を通して興味を持ったものがあったが、どれもすぐに興味を失せていたが、オメガ性もあって、それだけは覚えていた。 興味、というよりも仕方なしだが。 「実際に服用している者の話が聞けて良かった」と言った後、「だが」と続けた。 「私は今まで紙面でしか効果を知らなかった。所詮、自分はアルファであり、研究者の中でオメガが在籍しているのだが、その者にしか分からない物であったからだ」 抑制剤をどうやって開発をしているのかと今、御月堂に言われるまで興味がなかったが、そのようにしていたのかと思った。 「そのお前がそうやって言った時、偏見だと言い捨てておきながら、私自身も結局、他の性に対して無頓着であり、偏った見方しかしてないのではと思い至ってな。その研究者にも実際に会い、紙面上ではない話を聞いてきた」 実際にどの程度の効果があるのか、あれこれ訊いたのだという。 「それは良かったです」と当たり障りのない返事をしつつ、あることがふと疑問に思った。 「私のような一般人に、そこまで言っていいことなのですか」 「そこまでのことではない。それに、お前のおかげでそういうきっかけが出来たのだ。礼を言いたいところだ」 「そんな、こと⋯⋯」 瞬きするほどの間に、目が細めたかのように見え、心臓が飛び出るかと思った。 「私もまだまだのようだ。代表の素質があると早々に代替わりしたものの、未熟だ。これでは何百年ものの歴史を、自分の代で潰してしまう」 その重みは、ただのオメガである姫宮では計り知れない。 けれども、初めて御月堂の会社に訪れ、ロビー内を行き交う社員達の姿を思い浮かべた時、自分だけが苦しむならまだしも、あの社員達を路頭に迷わせてしまう可能性の重責を担っていることは分かった。 苦悩している、仕事関係程度の、言ってしまえば、関係ない者が何か言ってもしょうがないが、彼に言葉を掛けたい。

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