65 / 106
65.
「⋯⋯わたしも、この仕事をしたいと思ってしたわけじゃないのですよ」
小口がおもむろに口を開いた。
「そもそも仕事自体したいとは思ってないし、自分の好きなことをして、好きな物を食べて、そういう人生を過ごそうと思ってました」
いわゆるクソニートってやつですよ、と冗談混じりに言った。
「ですが、まあ、現実はそうやっているわけにもいかず、学校を卒業してから派遣で食い繋いできましたが、そろそろ前していた仕事も飽きてきたので、他の仕事をしようとした時、この仕事を見つけました」
今までの数々の仕事をやってきた経験を活かせるのでは、というのは後付けで、給料面に惹かれたのが主だったという。
「年齢がバラバラで、他はおば──お姐さま方で、わたしが最少年ですが、適当に仕事をしている風に見せかけていれば、特にそれ以上の交流をしなくていいやと思ってました」
コミュニケーションはめんどいですからね〜と、軽い調子で言った。
「ですが、姫宮さま。あなたさまを見た時、少し考えが変わったのです」
「⋯⋯私?」
「はい」
寝ぼけ眼のような瞳が、キラリと光ったような気がした。
「初めて見た時は、わたしと同じように自身の仕事に対して、仕方なくやっているように見えました。ですが、回数を重ねるうちにそれは、仕事どころではない、この世の全てを諦めているんだと感じました」
傍から見ても感じ取られてしまうのかと衝撃を受けていると、やっぱりと言いたげにフッと笑った。
「けれども、どうしてそうまでして、代理出産なんていう、大きな責任のある仕事をしているのだと疑問に思った時、気になって、一人になれそうな時を伺ってました」
それが、御月堂が急に訪れたあの日だったという。やはり、半分はサボるためにいたということを付け加えて。
「それがまあ、あの御月堂さまに泣かされたとは思わなくて。びっくりしましたよ」
「⋯⋯本当に、あれは御月堂様のせいではないのです」
「じゃあ、どうして?」
ともだちにシェアしよう!