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66.
無邪気な子どものような問いに、言葉が詰まった。
その答えも結局、代理出産を職にする要因だった。
言うべきなのだろうか。言葉にしたら、わだかまりが晴れるだろうか。
「⋯⋯私、は⋯⋯」
突如、下腹部に重い痛みを感じた。
これは。
「姫宮さま⋯⋯?」
「⋯⋯そろそろ、産まれるかも」
「えっ」
小口にしては珍しく、ところが思っていたよりも大きい声を出してしまい、慌てて口を塞ぐ。
「⋯⋯すいません」
「大丈夫、です⋯⋯」
「ですが、どうしよう。今すぐ病院に行かないとですよね。えぇ、今出たらな⋯⋯」
姫宮は、緩く首を振った。
「まだ、かもしれません。もう少し⋯⋯」
強ばっていた体が段々と柔らかくなっていっていき、深いため息を吐く。
「これで短い間隔で来ますと、やはり病院に行かねばなりません。ですが⋯⋯──」
「お待ちください!」
部屋の扉が大きな音を立てたのと同時に、安野の悲鳴にも似た声が聞こえ、体を硬直させる。
「いるんでしょー! 出てきなさいよ! でないと、引きずり回すわよー!」
携帯端末のライトを消した小口が、「⋯⋯どっちにしろ、嫌なやつじゃん」と軽く突っ込みを入れていた。
小口の軽い調子に少しばかり心が和らいたが、すぐに焦りが募った。
最後まで仕事をやり遂げなければならない。だが、姫宮を見つけ出すまで地の果てまで追いかけて来そうな雅に、足が竦む。
雅の前に姿を見せたとしても、その脅し文句のようにされて、お腹の子どもを殺されかねない。
思考が定まらない間にまた陣痛が来てしまった。──が。
「⋯⋯?」
反対の手で腹部に触れる。
さっきの陣痛と何か違う。すぐに終わったというのもあるが、違和感があった。
それは、とても嫌な意味で。
「⋯⋯そう」
「姫宮さま?」
そろりと立ち上がり、足を引きずるような足取りでクローゼットの扉へ歩む。
確信ではないが、ゼロである可能性もない。
このお腹の中で──。
「姫宮さま、行ってはいけません⋯⋯!」
「いいんです」
ゆるりと顔を向けながら、扉を開いた。
「⋯⋯もう、役目は終わりですから」
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