66 / 106

66.

無邪気な子どものような問いに、言葉が詰まった。 その答えも結局、代理出産を職にする要因だった。 言うべきなのだろうか。言葉にしたら、わだかまりが晴れるだろうか。 「⋯⋯私、は⋯⋯」 突如、下腹部に重い痛みを感じた。 これは。 「姫宮さま⋯⋯?」 「⋯⋯そろそろ、産まれるかも」 「えっ」 小口にしては珍しく、ところが思っていたよりも大きい声を出してしまい、慌てて口を塞ぐ。 「⋯⋯すいません」 「大丈夫、です⋯⋯」 「ですが、どうしよう。今すぐ病院に行かないとですよね。えぇ、今出たらな⋯⋯」 姫宮は、緩く首を振った。 「まだ、かもしれません。もう少し⋯⋯」 強ばっていた体が段々と柔らかくなっていっていき、深いため息を吐く。 「これで短い間隔で来ますと、やはり病院に行かねばなりません。ですが⋯⋯──」 「お待ちください!」 部屋の扉が大きな音を立てたのと同時に、安野の悲鳴にも似た声が聞こえ、体を硬直させる。 「いるんでしょー! 出てきなさいよ! でないと、引きずり回すわよー!」 携帯端末のライトを消した小口が、「⋯⋯どっちにしろ、嫌なやつじゃん」と軽く突っ込みを入れていた。 小口の軽い調子に少しばかり心が和らいたが、すぐに焦りが募った。 最後まで仕事をやり遂げなければならない。だが、姫宮を見つけ出すまで地の果てまで追いかけて来そうな雅に、足が竦む。 雅の前に姿を見せたとしても、その脅し文句のようにされて、お腹の子どもを殺されかねない。 思考が定まらない間にまた陣痛が来てしまった。──が。 「⋯⋯?」 反対の手で腹部に触れる。 さっきの陣痛と何か違う。すぐに終わったというのもあるが、違和感があった。 それは、とても嫌な意味で。 「⋯⋯そう」 「姫宮さま?」 そろりと立ち上がり、足を引きずるような足取りでクローゼットの扉へ歩む。 確信ではないが、ゼロである可能性もない。 このお腹の中で──。 「姫宮さま、行ってはいけません⋯⋯!」 「いいんです」 ゆるりと顔を向けながら、扉を開いた。 「⋯⋯もう、役目は終わりですから」

ともだちにシェアしよう!