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『人の顔を見て、何をニヤニヤしているんだ?』 『ふふっ、なんでもありません』 『それよりも今日も話をしますか?』と俊我の手を引いて、ベッドへ案内しようとした時、『話がある』と引き止められた。 え? と振り向くと、真剣な顔をした彼の姿があった。 『お前は俺と一緒にいる気はないか?』 『えっ、え⋯⋯?』 言っている意味が分からない。 きょとんとしていると、俊我は『あまりにも急な言い方だった』と続けて、 『店先で客寄せをしているお前を見かけた時、一目惚れをしたんだ。どうにか好きになってもらいたくて、話したり、好きな物は分からないから金しかあげられなかったが、それでもお前は困り笑いで受け取ってくれて。その表情でも、嬉しくてたまらなくて』 あと、俺の大したことない話を一生懸命に聞いてくれたのが嬉しかったし、こういう仕事をしているから、というのは偏見かと思うが、ぎこちなく誘うのが可愛く思えたし、こんな所に来てなんだが、まずは話をしたかっただけだし⋯⋯。 いつもより饒舌に話す俊我の、姫宮に対する"好き"の気持ちがこんなに溢れているとは思わなくて、胸がいっぱいになり、ぎゅうっと掴んだ。 これが人を"好き"になるということ。 『⋯⋯さっきも俺の姿を見た時、飛びついたのが⋯⋯って、何笑ってるんだ』 『だって⋯⋯だって、こんなにも僕のことを好きだと思わなくて。嬉しくて⋯⋯』 ひとしきり笑った後、頬を緩ませた そのまま改めて俊我に向き直った。 『僕も俊我さんの笑った顔が好きです。俊我さんと一緒にいたいです』

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