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俊我が懸命に愛を注いでくれた結果、めでたく姫宮のお腹の中には、幸せの形を宿していた。
自分には愛され、そして、自分の中には愛せるものがいるだなんて、幸せだな。
愛おしげに腹部を撫でていた。
これからはもっと俊我は愛してくれる。
そう思い、姫宮はお腹の子のために愛情を注いだり、彼のことをより一層愛そうと努めた。
が、お腹が大きくなるにつれて、俊我と顔を合わせる時間が減っていったのだ。
異変に気づいた最初辺りは、仕事が忙しいのだろうと思う程度でさほど気にしなかったが、段々と不安が募り始めた。
つわりのせいで、ささいなことでもそう感じてしまうのだと自身に言い聞かせ、お腹の子と待ち続けた。
『⋯⋯』
一人が寂しいという感情をまた味わうこととなってしまうとは。
妊娠してからというもの、検診以外は外へ行くことを許されなかった。
自分は世間の恥晒しのオメガで、それにあの店で働くこととなった際に付けられた首輪をしたままで、その禍々しさから人目を避けさせているのだろう。
首筋を噛んで、愛していると囁いて欲しいのに。
ウトウトしていた時、陣痛が始まった。
どうしたらいいのか分からない不安と焦燥、恐怖が入り混じり、震える手で携帯端末を取り、俊我に連絡した。
『ねぇ、俊我、さん⋯⋯っ、痛い⋯⋯怖い⋯⋯っ。早く、帰ってきてっ』
その後、俊我が病院に連絡してくれたのだろう。
やってきた救急隊員に運ばれて、そのまま出産することとなった。
不安でたまらない中、言われるがままに子どもを産んだ。
元気な産声を上げる我が子の姿を見て、たまらなく声を上げて泣いてしまった。
入院中、戸惑いながらも我が子に世話をし、無事に出産したことを俊我に伝えたものの、とうとう退院日まで来なかった。
一人寂しく帰宅し、寝かしつけているところに俊我が帰ってきて、満面の笑みで迎えたのも束の間、彼の口からとんでもない言葉が出てきた。
『愛賀。お前のことが必要なくなった』
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