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そうして姫宮は、大人向けのホテルや個人の家などに出張性的サービスを行なう仕事をすることとなった。
大した学歴もなく、第二の性で仕事が制限され、何よりもこの一分一秒でも生きる術を無くしてしまった姫宮は、愛玩具でも何でもいいから好きなようにしてもらえたらいいと、投げやりな気持ちだったからだ。
首を絞められた跡を隠すために自ら首輪をしていたものの、どこの誰とも知らない相手に、本能の赴くままに噛まれて、一方的に番解消され、精神に異常をきたしてしまってもいいと考えたことがあった。
実際、相手をしてきた人の中にその申し出があったほどだった。
ところが、心とは裏腹に、「首が醜いものになっているから」とかなんとか理由付けて、外さなかった。
それに対し激昂し、頬を殴られたり、乱暴な性行為をされ、身動きが出来ず、しばらく仕事が出来ない日が続いたりしたこともあった。
そんな空っぽな日を過ごし、ようやくの休みの日。
仕方なしに口にする物を買いに出た、帰りの道中。
公園に差し掛かり、親子連れの賑やかな声に姫宮のぼんやりとした意識が、ゆっくりと覚める。
「⋯⋯公園」
いつぞやか、安野とよく散歩をしていた場所を思い出す。
始めの頃は仕事と思う程度で、話題を振ってくる安野に対し、短い相槌程度の返事をしていた。
それが次第に触れ合っていくうちに、心が開いてきたようで、言葉を交わすことが多くなっていった。
そして、それが依頼人であった相手に積極的に話すことにも繋がった。
常にスーツ姿であったまさに絵に書いたような仕事人間で、子どものことに関しては跡継ぎ程度しか思ってなかった。
「⋯⋯」
何にもない腹部を触る。
早く離れたくて、その依頼人とはきちんとした挨拶をせず、行方をくらませてしまった。
どんな形であれ、仕事は最後まで滞りなくするべきなのに。
このことすら、自分はちゃんと出来なくなってしまったのか。
現実から目を背けるように、踵を返し、帰路へと向かおうとしていた。
「⋯⋯久しぶりだな」
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