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向けられる言葉一つ一つが刃となって、無防備な姫宮に突き刺さる。 また嫌味を言われる。子どもが殺される。 「知り合いだったのか」 「知ってるも何も、戸籍上の夫が代理出産を頼んでいたからね。この子どもと一緒でしょ?」 聞き捨てならないことを耳にした。 俊我との間に出来た子どもが、代理出産だと思われている。 あの子は決して、そうじゃないのに。 ──いや、断言できるだろうか。 子どもが出来てからというもの、家庭を顧みず、顔を合わせることすらなくなっていった。 今思えば、やましいことがあったからではと考えてしまう。 そう思いたくない。 「そうだな」 しかし、俊我の一言で一抹の希望が消え失せた。 「元はと言えば、雅と婚姻する条件として子どもがいなければならないというものだったしな。だから俺が見ず知らずのオメガに子どもを作らせた」 世間をまだ知らない子ども相手に、体を貪られて、心身共に疲弊していた日々の中で、唯一の拠り所で無理やり体を重ねてこようとはせず、言葉を交わし合うあの時間がとても楽しくて、次いつ会えるのか心を踊らせていた時に、一緒にいる形となって、愛されているとそう思っていた、のに。 記憶の鏡が、粉々に砕け散る音が聞こえた。 だから、婚姻はせず、なるべく外に出させないようにしていたのは、存在をひた隠しにしたかったからなのか。 愛されていると思っていたのは、笑い合える楽しい日々は全て、まやかし⋯⋯。 「愛賀、あのような所で働いている人間が愛されているとは思わない方がいい」 「⋯⋯っ⋯⋯」 「そうね。代理出産の仕事をしているあんたにお似合いじゃない」 「⋯⋯」 俊我といた頃はその仕事をしてない。だから、本当の愛として、あの子を身ごもった。 そう言いたいのに、言葉を失ってしまったかのように声が出せず、代わりに出たのは空気が漏れた音だった。 「俊我と共通のオメガがまさか夫だとは思わなかったけどね。あいつの子どもを流産させることが出来て良かったけど」 「お前、そこまでしていたのか」 「個人的な感情よ、個人的な」

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