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去り際、言っていた通り、その次の日も来てくれた。 手には紙袋を携えて。 「好きな物を選ぶといい」 袋から取り出した箱を開けて、御月堂は言った。 箱の中には、ショートケーキ、チョコレートケーキ、チーズケーキとケーキ類が入っていた。 数秒見つめた後、「どうされたのですか」と訊いた。 「見舞いとして持ってきた」 「病院に持ってきてもいいのでしょうか」 「⋯⋯細かいことは気にするな」 言い淀んだことで、姫宮は小さく吹き出した。 「何がおかしい」 「すみません。生真面目な方がこのようなことをして、誤魔化すような言い方をされるので、思わず⋯⋯」 「⋯⋯以前、依頼を引き受けてくれた時、食べ物が制限されていると言っていた。今は大丈夫かと思って」 言いにくそうに紡いだ言葉に、真っ先に謝らなければならないことに今気づいた。 「申し訳ございません! 本当は、きちんとした形で契約を解消しなければならないというのに、勝手に行方をくらませた挙げ句、お見苦しいところを見せてしまいました」 一人部屋であるから、他の入院患者のことを気にせず、一際大きな声で謝罪の言葉を口にする。 御月堂だけに謝るべきではない。安野達にも、そして、御月堂の子どもにも謝っても謝りきれない、この身を持って償うべきなのだ。 そんなであるから、雅にどんなに耳を塞ぎたくなるような言葉を吐かれても仕方ない。 「謝るな」 言葉を震わせながらも、それでも謝罪をしていると、手首を掴まれた。 水面に漂っているような視界で御月堂を見つめた。 「謝らせるためにこれを持ってきたのではない。それに、謝るべきなのはこの私だ。⋯⋯すまない。お前が言っていたように、普段から会話をしていればこんなことにはならなかったし、子どもも危険な目に遭わせることはなかった」 「⋯⋯御月堂様⋯⋯」 「あの契約はなかったことにする。そして、お前を納得いく形にしてあげたい」 「私に⋯⋯そこまでは⋯⋯」

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