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82.
去り際、言っていた通り、その次の日も来てくれた。
手には紙袋を携えて。
「好きな物を選ぶといい」
袋から取り出した箱を開けて、御月堂は言った。
箱の中には、ショートケーキ、チョコレートケーキ、チーズケーキとケーキ類が入っていた。
数秒見つめた後、「どうされたのですか」と訊いた。
「見舞いとして持ってきた」
「病院に持ってきてもいいのでしょうか」
「⋯⋯細かいことは気にするな」
言い淀んだことで、姫宮は小さく吹き出した。
「何がおかしい」
「すみません。生真面目な方がこのようなことをして、誤魔化すような言い方をされるので、思わず⋯⋯」
「⋯⋯以前、依頼を引き受けてくれた時、食べ物が制限されていると言っていた。今は大丈夫かと思って」
言いにくそうに紡いだ言葉に、真っ先に謝らなければならないことに今気づいた。
「申し訳ございません! 本当は、きちんとした形で契約を解消しなければならないというのに、勝手に行方をくらませた挙げ句、お見苦しいところを見せてしまいました」
一人部屋であるから、他の入院患者のことを気にせず、一際大きな声で謝罪の言葉を口にする。
御月堂だけに謝るべきではない。安野達にも、そして、御月堂の子どもにも謝っても謝りきれない、この身を持って償うべきなのだ。
そんなであるから、雅にどんなに耳を塞ぎたくなるような言葉を吐かれても仕方ない。
「謝るな」
言葉を震わせながらも、それでも謝罪をしていると、手首を掴まれた。
水面に漂っているような視界で御月堂を見つめた。
「謝らせるためにこれを持ってきたのではない。それに、謝るべきなのはこの私だ。⋯⋯すまない。お前が言っていたように、普段から会話をしていればこんなことにはならなかったし、子どもも危険な目に遭わせることはなかった」
「⋯⋯御月堂様⋯⋯」
「あの契約はなかったことにする。そして、お前を納得いく形にしてあげたい」
「私に⋯⋯そこまでは⋯⋯」
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