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その数日後、姫宮は退院した。 まだ安静にしていた方がいいと、入院を延長させようとしていた御月堂を制し、代わりにあるお願いをして、彼と共に車である場所へと向かった。 「退院したとはいえ、完治したわけではないぞ。何も今日ではなくていいだろう」 「いえ。一日でも早く行きたいのです。御月堂様がお忙しい中、無理を承知で申し上げているのは分かっているのですが⋯⋯」 「⋯⋯慶」 「え?」 「私の下の名前だ。そう呼んでくれ」 急に何の話かと聞き返すと、どこか不機嫌そうにそう言って、車の窓の外へ顔を背けてしまった。 瞬かせる。 一応恋人としての契約をしている間柄であるから、恋人らしいことでもしようとしているのか。 そう思った時、頬が緩んだ。 「慶様」 不意に呼んでみた。すると、傍からでも分かるほど肩を震わせて、驚いているような顔を見せた。 「な、んだ」 「ふふ、素敵な名前だなと思いまして」 「⋯⋯用がないのであれば、話しかけるのではない」 「では⋯⋯私のことは、愛賀(あいが)と呼んでください」 「愛賀」 「はい」 「可愛いな」 ⋯⋯不意打ちを食らった。 徐々に熱くなっていく頬を感じている姫宮に対し、御月堂は余裕があるような笑みを見せてくる。 怒りという感情は一切出てこない。それよりも、知らず知らずのうちに固まっていた体が解れていくのを感じた。 まさか彼はこのことを分かって、わざとそのようなことを言ったのか。 どちらにせよ、嬉しく感じるのだから結果的に良かったといえよう。 「慶様」 「今度はなんだ」 「ありがとうございます」 「礼を言うほどでもないだろう」 目を逸らす彼の頬がほんのりと赤くなっているのを見つけた。 あなたの方が可愛いじゃないですか。 その意味を込めて、ひっそりと笑みを作った。 「御月堂様。姫宮様。目的地に着きました」 運転手の一言で、緩んだ空気が一気に張り詰めた。 思わず見つめ合う形となった御月堂が頷くと、姫宮も小さく頷いた。 運転手がドアを開けたことに促され、御月堂に続いて、姫宮も降りた。

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