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「い⋯⋯っ」 戸惑いを覚えたのも束の間、短い悲鳴を上げた。 そのことで、ハッとした様子の御月堂の手が緩められた。 「すまない。怒りに身を任せていたら、お前の繊細な手を痛めてしまったようだ。手を離そう」 「いえ、大丈夫です」 離れようとした手を両手で掴む。 姫宮がそうしてくるとは思わなかったのか、口を半開きする御月堂のことを見上げた。 「安野さん達と長く一緒にいましたが、それもようやくあってのことなのです。今までの経験上、私が仕事以上に人と関わらないようにしてきたので、あれほどまでに仕事関係なく、世話を焼いてくれる人達でしたので、自分のことを晒け出してもいいのだと思いまして、それで」 「⋯⋯そうか。私といる時とは違ういい匂いがしてきたものだから、らしくないことをしてしまった」 悔やんでいる様子の御月堂の言葉に、そういえばと思った。 「私も、今さらですが、慶様の妬いているツンとくるような匂いの中に、僅かに花のように甘い匂いがしたのです」 今までは雰囲気でしか感じられなかった、相手の感情が匂いで分かったとは。 今までは本当に人に興味がなく、見た目だけで判断していたということ、そして、御月堂のことを想っている。 これが本当の人を好きになるということ。 「さっきよりも匂いが濃くなってきた。これは私のことを考えているのか」 「はい⋯⋯そうです」 密閉された空間であるから、より御月堂の匂いが充満し、酔っているような感覚に陥る。 触れたい。手よりももっと身近に彼のことを感じていたい。 それは彼も同じことを考えているようで、反対の手で顎に添える。 この雰囲気は。 整えられた薄い唇が迫ってくる。それを受け入れる準備が出来ていると、瞼を閉じた。 さっきの鼓動とは違う、甘やかにときめきを感じさせる優しい鼓動。 彼の唇に触れたら、この心臓は驚いて飛び出てしまうだろうか。 そう思うほどに、嬉しく──。 「「「姫宮様!!! 無事に退院、おかえりなさ──」」」

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