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扉が開くことを告げる声が聞こえた直後、聞き慣れていた声が聞こえ、我に返った姫宮は急いでそちらに顔を向けた。 すると、扉が開かれた先にしまったとも言いたげの安野達と目が合った。 いつぞやかのように、クラッカーを手に持って。 「あ、あぁ〜⋯⋯これは⋯⋯とんでもなくタイミングが悪かったですね」 「また安野さんの早とちりが、大失態に繋がりましたね」 「姫宮様のことが大好きなのは、分からなくもないですけど」 「大っ変、申し訳ございませんでしたっ! 出直して来ます!」 口々にからかうように言う今井達を押して、去ろうとする安野を引き止めた。 「姫宮様、いいのですか?」 「ええ、はい。私は気にしてませんですし、慶様もきっと⋯⋯」 同意を求めようと見上げた時、ぎょっとした。 眉をこれでもかと寄せ、睨みつけるように安野達を見ていたことに。 負の感情であれども、ここまで表すとは思わなく、新鮮であった。 甘い匂いが引っ込み、鼻につく匂いを感じながら思った。 「愛賀の身を案じて、共に来なければ良かったな。ここまで怒りを感じるとは」 「ひぇ〜! お許しを!」 「慶様、お止めください。続きは場を改めてでも出来るはずです。⋯⋯私はいつでもお待ちしておりますから」 御月堂を説得するためとはいえ、あのことを改めてするということを想像しただけで、段々と恥ずかしくなっていき、語尾が小さくなってくる。 「そ、それよりもエレベーターから降り──っ!」 引き寄せられたかと思うと、額に柔らかいものが触れた。 「約束しよう」 驚きのまま見つめると、彼はふっと笑い、「降りるか」と共にエレベーターから出て、そのまま廊下を歩いて行こうとする。 「え⋯⋯見た? 見まして?」 「ものすごくすごいものを見せつけられましたね⋯⋯」 「はわわ⋯⋯! あのようなことを、目の前で、目の前で⋯⋯!」 きゃー! と黄色い声を上げる安野達をそろりと、見ようとする姫宮に「愛賀」と声を掛けられた。

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