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89.
扉が開くことを告げる声が聞こえた直後、聞き慣れていた声が聞こえ、我に返った姫宮は急いでそちらに顔を向けた。
すると、扉が開かれた先にしまったとも言いたげの安野達と目が合った。
いつぞやかのように、クラッカーを手に持って。
「あ、あぁ〜⋯⋯これは⋯⋯とんでもなくタイミングが悪かったですね」
「また安野さんの早とちりが、大失態に繋がりましたね」
「姫宮様のことが大好きなのは、分からなくもないですけど」
「大っ変、申し訳ございませんでしたっ! 出直して来ます!」
口々にからかうように言う今井達を押して、去ろうとする安野を引き止めた。
「姫宮様、いいのですか?」
「ええ、はい。私は気にしてませんですし、慶様もきっと⋯⋯」
同意を求めようと見上げた時、ぎょっとした。
眉をこれでもかと寄せ、睨みつけるように安野達を見ていたことに。
負の感情であれども、ここまで表すとは思わなく、新鮮であった。
甘い匂いが引っ込み、鼻につく匂いを感じながら思った。
「愛賀の身を案じて、共に来なければ良かったな。ここまで怒りを感じるとは」
「ひぇ〜! お許しを!」
「慶様、お止めください。続きは場を改めてでも出来るはずです。⋯⋯私はいつでもお待ちしておりますから」
御月堂を説得するためとはいえ、あのことを改めてするということを想像しただけで、段々と恥ずかしくなっていき、語尾が小さくなってくる。
「そ、それよりもエレベーターから降り──っ!」
引き寄せられたかと思うと、額に柔らかいものが触れた。
「約束しよう」
驚きのまま見つめると、彼はふっと笑い、「降りるか」と共にエレベーターから出て、そのまま廊下を歩いて行こうとする。
「え⋯⋯見た? 見まして?」
「ものすごくすごいものを見せつけられましたね⋯⋯」
「はわわ⋯⋯! あのようなことを、目の前で、目の前で⋯⋯!」
きゃー! と黄色い声を上げる安野達をそろりと、見ようとする姫宮に「愛賀」と声を掛けられた。
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