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93.
顔を半分だけこちらに向けてきたのだ。
小さく声を上げている姫宮の手に、おずおずと小さな手が指先に触れた。
「た、いが⋯⋯」
きゅ、と遠慮がちに掴む小さな指。
かつて、一番の頼りになるはずの俊我が入院中にも来ず、初めての育児にどうしたらいいのか困惑している時、赤子だった大河が不意にしてきたことを思い出す。
「大河⋯⋯っ」
見ていた指先の視界が滲む。
「良かったな」
「はい⋯⋯っ」
さりげなく頭を撫でてくれている御月堂に、身を寄せた。
堕ちるところまで堕ち続けていた日々からすくい上げられ、小さな幸せが舞い降りた新たな一歩の一日。
こんな自分に、このようなことが訪れるとは思わなかったと、過去の自分は思うだろう。今でもふとした瞬間にそう思う。
そう悩む余裕がないほど、小さな幸せを噛み締めていきたい。
御月堂の腕の中で静かに泣きながら、これからのことを思い描くのだった。
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