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後日談

かつて愛した人との間にできた子ども・大河と、継続的に世話係をしてくれることとなった安野達と、御月堂の代理出産を依頼した際に借りたマンションにそのまま住む形となって、一ヶ月ほどが経った頃。 あの頃とは違ったように見える自室の天井を、起き抜けの目で見つめていた。 あれから大河は、変わらず姫宮には懐かず、ほぼ小口にくっついて過ごしていた。 小口は姫宮と変わらない年齢であるが、童顔で平均身長より低めであるためか、十ほど年の離れた姉弟のように見えて、ふとした時は微笑ましく思えるが、自分の立場は何なのかと、寂しくもあり、悩んだりする毎日であった。 育児に挑戦してみたいが、それは叶わず、ならばとまともに家事をしてこなかったため、安野達にそれらを教えてもらう日々を過ごしてしまっている。 大河と一言でも話してみたいが、小口が言っていたように大河は口が利けない子らしく、大河側から話すことはよっぽどのことがない限りないという。 年齢的に幼稚園に通わなければならないけれども、そのような状態であるため、家で過ごすことが大半だった。 ところが、家事を教えてもらいながら日々を過ごしているだけではないのが、特異体質であるがゆえの所以。 定期的に訪れる発情期(ヒート)の予定日に近い。 起きた時に体が重く感じられるのも、熱っぽさを感じられるのもそれの前兆だ。 今日は家事を教えてもらうのを控えて、自室に大人しく過ごしていようか。 小さく息を吐いて、安野にそれを告げるために部屋を去って行った。 「おはようございます」 リビングダイニングへと繋がる扉を開け、挨拶するとダイニングの方から複数人の声がそれぞれ挨拶を返してくれた。 「朝からお疲れ様です」 「いえ、姫宮様達のためならば、このぐらい······」 真っ先にこにこで話しかけてきた安野の表情が固まった。 これはもしかしたら気づかれたかもしれない。 そう思うが否や、安野はそそくさとこちらに回ってきて、「姫宮様っ!」と悲鳴を上げた。

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