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4.
身一つも動かない。
完全に警戒されたままで、これ以上話しかけても嫌がられるかもしれない。
どうしたものか、とぼんやりとしてきた頭で考えていると、「お待たせしました」と安野と今井が食事を運んできた。
料理を置いている時、身支度を整えた小口が戻ってきて、大河の脇に控えた。
「お召し上がりください」
「ありがとうございます。──大河、いただきますをしようか。手を合わせて、いただきます」
姫宮の掛け声と共に小さな手を合わせて、頭を下げた。
これは保護した当初から誰かに言われずともやっていたようだ。
周りが不思議がりながらも「偉いですね」と口々に褒める中、それを聞いた姫宮は思い当たることがあった。
そう教えたのは、きっと彼······。
意識が遠くなりかけたのを、大河がスプーンを持つ動作をしたのを見て、やや遅れ気味に姫宮もスプーンを手に取り、コーンスープを掬い取った。
コーンとクリームの優しい甘みが、火照っている体に染み渡る。
「姫宮様、お口に合いますでしょうか」
「ええ、それはもう。今日もとても美味しいです」
「そうですか! 姫宮様がそう仰られますと、安野はとても感激致します······!」
その言葉通りに瞳が潤ませる彼女に、「大げさですよ」と苦笑漏らす。
と、そんな時だった。つんざくような音が鳴り響いたのは。
驚きも束の間、音のした方へ振り向くと、大河がスプーンを落としてしまったようだった。
「大河、大丈夫?」
姫宮のそばに落ちたのもあり、拾うと「違う物とお取り替えしますね」と安野が受け取って足早とダイニングに向かうのを尻目に、彼の様子を見ていた刹那、急に椅子から下りたと思うと、部屋から出て行ってしまった。
「え、大河、どうしたの」
「あー、もしかしたら、怒っているのかもしれませんね」
「怒っている?」
大河が出て行った先を見つめながら、不意に言う小口の言葉を繰り返した。
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