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「見てましたけど、スプーン落としたの、わざとだったんですよ。安野さんが話した時にですから、安野さんの声が嫌だったのですかねー」 「小口。大河様のお世話で免除していた仕事を増やしますよ」 「······冗談ですって。多分ですが、姫宮様と安野さんが楽しそうにしていることに、嫉妬しているのではないかと思います」 「嫉妬······私にですか?」 「それでこそ、安野さんでしょ。ママさまである姫宮さまにそのような感情をしないですって」 すっぱりと言い切る小口に腑に落ちないでいた。 俊我に突然取り上げられた理由が、雅との婚姻する条件だったということが後に本人の口から告げられたが、まだ産まれたての大河が知る由もなく、急に現れた赤の他人も同然の親に、そのような感情を出すというのか。 姫宮が納得してない顔をしたようだ、「では、ちょっとお待ちください」と行って、リビングの方の、大河が遊ぶスペースへと赴き、ある物を脇に抱えて持ってきた。 「これを見てください」 小口が姫宮に見せた物、それはお絵描き帳のある一ページだった。 ほぼ右側に申し訳程度に、真ん中分けに短髪の黒髪の人物がニッコリとした顔で描かれていた。 姫宮の他に短髪の人はいるが、逆に真ん中分けは姫宮しかいない。 「このページも、このページもですよ」 次から次へと捲るページには、最初に見せられた姫宮らしき人物と、大河らしき人物がニッコリとした顔で手を繋いでいる様子、かつて見た俊我らしい人物と三人で並んで描かれているページもあった。 「どうして、こんなにも私の絵が······」 「姫宮さまが大河さまと再びお会いになったのが、ここ一ヶ月と仰っていましたよね。そうでしたらその間、例の方が大河さまと一緒にいたということになりますよね。その時に姫宮さまのことを教えたのではないでしょうか」 その言葉に顔を上げると、「臆測ですけど」と小口の特徴である眠たげな目でただ見つめていた。

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