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第4話

「い、今なんと、おっしゃいましたか?」 「だから、早くこの天使を"治せ"と言っている」 天使を目前にネルガルが放った言葉に、俺は手に持っていたカバンを落としてしまう   俺の名はグリフ 魔界では珍しい医者をしている、そこら辺にいる下級魔族だ 先程いきなり上級魔族であるネルガル様から早急に屋敷に来いとの命令があり、急いで来てみたらなんということだ 天使がいる! そう聞いた私は今にも飛び上がるのではないかと思うくらいの興奮を抱いた 天使とは魔界の中で最も高級な代物だ もし天使を喰らったものなら、その肉の柔らかさに驚愕するほどで、何より、天使の芳醇な味は二度と忘れる事は出来ないほどうまいと言う また物好きの魔族は天使を犯すこともあると言うが、その抱き心地はとても滑らかで、天使の中に挿れれば病みつきになるほどの快感が得られるという  天使は喰うも犯すも最高級品だ 下級魔族ならまだしも、上級魔族でもそう簡単に手に入れるのは難しいと言われるほどに それをもしかしたら今日、お目にかかれるかもしれない なぜ医者の俺が呼ばれたのかはわからない だが、そんなことはどうでもいい そう思えるほど、天使は貴重で幻だ 運が良ければ見るだけでなく、触ることさえできるかもしれない! そう思って来たのに 「おい早く治せ、じゃないと死んじまう」 「無茶言わないでください!私は魔族専門の医者ですよ!天使なんて治すどころか初めて見たのに…」 「ごちゃごちゃ言うならおまえを喰うぞ」 「ひぇ…」 そんなことを言われたら逆らえる訳がない グリフが下級魔族に対してネルガルは上級魔族の中でも名を馳せるほど力の持ち主で、地位も名誉を持ち合わせている そんなネルガルにとってグリフを喰うことなんて3時のおやつ感覚だ 下手すりゃ一瞬でお陀仏だ やるだけやってみるしかない グリフは改めて天使を見直す 大きなベッドにはそぐわない小さな体が横たわっていて、意識はない 背中に生える2本の翼の片方はすでにボロボロで、その周りには天使の羽と思われるものが散乱している そして尻からは赤と白の混じったものが垂れ流れていた 「酷い状態ですね。慣らさず挿れたんですか?」 「さっさとしろ」 「はいぃ…」 いかんいかん集中しなきゃ グリフは恐る恐る天使に近づいた 近くで見る天使はとても可愛らしい顔立ちで思わず見惚れてしまいたくなる この顔に噛み付いたらどんなに美味いだろうか ごくりと喉が鳴る だが、後ろに立つネルガルの視線が突き刺さってくるのでぼーっとはしていられない 「うーん…これはもう無理だと思います。まだ息はあるので、シェフを呼んで新鮮なうちに捌いてしまった方がいいのでは?」 「ダメだ治せ」 「うぅ…はい……」 これは何を言っても無駄な雰囲気だ 昔からネルガル様は物好きな人だとは思っていたが、一体天使を治してどうしようというのか グリフはそんな事を考えながらカバンの中から数々の薬を取り出し、ネルガルに手渡しした 「熱があるようなので一応熱冷ましと、それからこれは軟膏です。中が切れているようなので、優しく塗ってあげて下さい。まあ、魔族用の薬が天使に効くかどうか…」 「天使が死んだら覚悟するんだな」 「そ、そんなぁ…」 そうやってグリフはやっとの事でネルガルに解放された 全く散々な1日だった でも、初めて見た天使はとても綺麗だったな 確かに生かして置きたい気持ちもわからなくもない だがきっと無駄な事だ 天界と魔界は全く別の場所なのだ 天使が魔界で生きていけるとは到底想像できない 死んでしまったら残念だが、魔界で生きていくより、死んだ方がよっぽどマシだろう でも、 できるなら、また会えるといいな

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