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第5話

「お願いします…どうか、おやめください…」 「ああ、ルイティス。仕方がないのだ」 そう言って目の前の天使はゆっくりと近づいてくる 「仕方がない、お前が私に逆らうからいけないのだ」 「そんなつもりではなかったんです!どうかおやめください…」 僕は震えた声で懇願した 目からは涙が溢れて止まらない どんどん迫ってくる天使から逃げるように後ずさるが、天使に腕を掴まれ逃げることはできなかった 「いや、やめてっ、ミカエル様っ!」 「ああ、可愛いルイティス。これからは私しか見れないようにしてやろう」 天使は美しい顔で微笑む その手には真っ赤に染まった光の矢 ルイティスは恐怖で震えた いやだ、いやだ! やめて! そこで僕は目を覚ました あれ、僕、生きてる… そこでようやくハッとして辺りを見渡す そこは僕の知らない部屋だった 状況が読めず僕は起きあがろうとしたが、隣からぬっと出てきた大きな手に自身の腕を引っ張られて、また倒れ込むようにベッドに寝転がる 驚いて横を向くと、その大きな手の主がこちらをじっと睨みつけていた 綺麗な青年だ 漆黒の髪に、額にはバランスよく生えた2本の角 そして、蛇のような鋭い目つき その目で睨まれると体がまるで石になったかの様に動かなくなってしまった 真っ黒で、吸い込まれそうな 彼の口が薄っすら開く 僕はじっとその姿を見ていることしかできなかった 「どこへ行くのだ?天使」 ネルガルは天使の声で目を覚ました 昨日、グリフが帰ったあと、メイドに天使を綺麗にするように言って それで、どうしたか ああ、そうだ 気絶した天使がなかなか起きないので薬を飲ますことができず、とりあえず目を覚ますまでベッドで寝かせて待っていようと思ったのだ だが、途中でネルガル自身も眠たくなってしまい、天使を退かすのも面倒なのでそのまま天使の横で一緒に寝たのだ 天使と共に眠った一夜はまるで雲の上で寝ているかのような極上の夢心地で 今までの人生で1番気持ちの良い睡眠だった とても寝覚めがいい 天使と眠ったことと何か関係があるのだろうか 「……ぅ、…ぅう」 ネルガルは横で眠る天使を見る どうやら天使は悪夢でも見ているのかうなされていて、額には薄っすらと汗をかいていた と、思ったら急にうなり声が止む どうやら目を覚ましたようだ ネルガルはしばらく天使の様子を伺った 天使は目が覚めると辺りをキョロキョロと見渡しているが、隣にいるネルガルには気づいていないらしい 少し脅かしてやろう ネルガルは起きあがろうとした天使の腕を掴むと、そのままベッドに引きずりこむように引っ張った ぽふっと柔らかいベッドに小さな体の天使が沈むように倒れ込んできた 天使は驚いたのか手が出てきた方に目線を走らせ、ようやく隣のネルガルの存在に気がついたようだ ぱちりと薄茶色の瞳と目が合う まだ寝ぼけているのだろう 天使は悪魔を前にしても逃げることはなくただ、ぼーっと眺めているだけだった その顔はあまりに可憐で魅力的だ 突然、ネルガルの心臓あたりが熱くなる 今までに経験したことがない感覚だった とっさにネルガルは口を開いた 「…どこへ行くのだ?天使」 そう言葉を発した瞬間、ようやく意識が覚醒したのだろう 天使の顔はみるみる青ざめていき、体はカタカタと震えだした 天使は先程の顔とは打って変わって怯えるような表情に変わってしまい ネルガルは少し残念に思った なぜそう思ったのかは、わからないが 「…ああそうだ、天使、お前に飲ませなければならないものがある」 ネルガルは思い出したように言うと、ベッドから起き上がってそばにある机の中から、小さなビンを取り出した グリフから貰った熱冷ましの薬だ 天使はその様子をじっと見ているだけだ 今、ネルガルの隙を狙ってこの部屋から出て行くこともできるだろう だが天使はそうしない。逃げきれないことを理解しているだろう ただじっと動かず、ネルガルの様子を伺っていた 「天使、これを飲め」 ネルガルはビンの栓を外して、天使にビンを差し出した

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