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第7話
「へーすごい、言葉がわかるんですね」
「おそらくな。天使、ここに座れ」
その言葉に天使は青ざめる
ネルガルが天使に座るように指を指したのは、グリフのすぐそばのイスだ
先程グリフに喰われそうになったというのに、その前に出て行くなんて、自ら死ににいくようなものだ
天使はまた部屋の隅の物陰に縮こまるように隠れてしまった
「チッ…お前のせいだぞ」
「すいません…」
ネルガルはいつまで経っても出てこない天使に痺れを切らし、ネルガル自ら天使の元へ向かう
天使は近づいてくるネルガルに怯え、壁が背にあるというのにさらに後ろに後ずさろうとする
しまいには、まるでネルガルの行手を遮ろうとしてるのか、まだ使える方の翼で自分を体を守るように包み込んだ
はぁ、鬱陶しい
さっきまでネルガルには従順だった天使が、今はまるで言う事を聞かない事にネルガルはイラつきを覚えた
ついにネルガルは思い切り天使の足を掴みそのまま引き摺り出す
「っ!?」
天使は驚いて手足や翼をバタバタと動かして暴れたが、ネルガルにとってその全ては無意味でしかなかった
「くそ、暴れるんじゃない」
ネルガルはあっという間に天使を部屋の隅からグリフの前へと連れてくる
イスに連れてくるころには天使は大人しくなり、その顔はまるで死を覚悟しているような表情だ
構わずネルガルは無理矢理天使をイスに座らせると、押さえつけるように天使の肩にぐっと手を乗せた
「昨日よりは元気そうですね」
「さっさとしろグリフ」
「ひぃ…わかってますって…」
ネルガルはグリフに早く調べるように催促する
グリフはカバンから、小さなペン型のライトをだし、手袋をはめた
「それじゃあ、失礼して…」
「天使、口を開けろ」
グリフは急に真剣な顔つきになり、優しく天使の口に手を近づけた
天使は対抗するように口を固く閉ざしたが、ネルガルが開けろと言えば、天使はいそいそと唇を開く
グリフは天使の唇が薄く開くと、その隙間に指を押し込み、容赦なく口を広げて中をライトで照らす
天使の口から空気の抜けるような音がした
「…ふぁ…」
「口内は、少々傷がありますが問題ないですね。喉も見ますね」
「ああ」
グリフは奥まで見えるようにさらに天使の口を大きく開かせた
天使は何をされてるのか全くわからないと言った様子で、行き場の無くなった手で、必死にネルガルの手を握る
「うわ、いくらなんでも酷いですネルガル様。喉を焼いたんですか?」
「俺がやったんじゃない…そうか喉か、通りで一言も鳴かないわけだ」
「はい、声帯が傷ついているようです」
「治るのか?」
「さあ、天使の回復力がどこまでなのか…」
グリフは天使の口から手を離した
その際天使に ごめんね と小さく呟いていた
ネルガルも天使の肩から手を退けてやる
天使は2人の圧迫感がなくなり、安堵の表情を浮かべたが、知らぬまにネルガルの手を握ってしまっていた事に気づいたのか、ハッとしたようにすぐさますっと手を離した
一方グリフは、 天使に触ってしまった… と独り言をぶつぶつ言いながら手袋を捨て、ライトをカバンにしまう
と、ふと気がついたと言うようにグリフはカバンを漁りながらネルガルに話しかけてきた
「そう言えばこの天使、瞳が薄い茶色ですね。とても珍しい個体なのでしょうか」
「そうなのか?」
「え?知らないんですか?天使は普通、金眼か碧眼のどちらかです。ネルガル様はよく天使軍と戦争をしているのでご存じだと思っていました」
「殺し合い中に目なんか見てられるか。でも、たしかに、通りで他の天使とは違うと思ったのだ。奴らは髪も羽も同じ白色だから個性がない。それの分、こいつは特別なのだな」
「ええ、綺麗な瞳です」
そう言いながらグリフはカバンの中から薬の入ったビンを数種類取り出し、ネルガルに一つ一つ説明しながら手渡した
「これは引き続き熱冷ましです。まだ熱はあるみたいですから。それからこれは喉の痛みを抑える薬です。声帯は分かりませんが、これで食事くらいはできるでしょう」
「食事か、天使は何を食べるんだ?」
「え、それは…………知りません」
「虫はどうだ?天使なんて鳥みたいなものだろう」
「いやいやあんなグロテスクなもの、天使が食べるわけないでしょう」
「全く役立たんな。お前は医者じゃないのか?」
「何度も言いますが、私は魔族専門の医者です!」
言い争うネルガルとグリフに、天使はまた怯えたように部屋の隅から2人を覗く
そんな天使をよそにネルガルとグリフは口論を続けるが、突然ネルガルが思いついたように言った
「なら、知恵の実はどうだ?もともとエデンに生えていたものだ」
「リンゴの事ですか?魔界で育ったものですが…確かに虫なんかよりずっと現実的ですね。試してみる価値はあると思います」
そうしてかれこれ10分ほど続いた口論は、今やっと終わったと天使が胸を撫で下ろす
結論が出たネルガルは、早速外にいるメイドにリンゴを取り寄せるよう命令を下す
メイドは変わらず、「承知しました」と扉の隙間から出ていく
一方グリフも散らばった薬品を集めてカバンに片付けると
「薬を飲ませるのをお忘れなく。それからしっかり軟膏も塗ってあげて下さい。治るまで挿れてはダメですからね!」
と、最後までネルガルにうるさく注意して帰っていった
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