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第8話
「おい天使、飯の時間だぞ」
ネルガルがそう言うと部屋の隅からひょこりと天使が顔を覗かせた
あれからいろいろあり、天使が来てから1週間が経とうとしていた
相変わらず天使は部屋の隅で震えてばかりいるが、最初よりは警戒が解けたように思える
現に食事を与える時だけだが、ネルガルの側に近寄って来るようになった
ネルガルはイスに座って、天使のために作られた食事をスプーンによそうとそのまま天使の前に差し出した
天使は小さな口を開くと、それを啄むようにして食す
まるで雛鳥に餌を与えるようなこの行為がネルガルの最近の日課となった
「うまいか?」
「…ん……」
ネルガルは天使に問うが、天使は何も答えない
だが代わりにくりっとした瞳をネルガルに向けると遠慮がちにコクリと小さく頷いた
ネルガルはその様子を見て満足そうに、また一杯スプーンでよそって天使の口に運んだ
この1週間
わかったことがいくつかある
一つ目は天使は主に果物を好んで食べるということ
1日目にリンゴのすり潰したものを与えてみると、天使は警戒しながらもそれを食べた
ネルガルとグリフはそれを元にさまざまな果物を与えてみた
天使はやはり警戒しながらも2人が与える果物を口に入れた
ちなみに野菜も食べれるらしいが、魔物の肉は一つも口にしなかった
ネルガルが小型の魔物を天使に与えると、なぜか悲しそうな表情をしては与えられた魔物を食べる事なく大事そうに抱え込んでしまったのだ
ネルガルは気味悪く思い、天使から魔物を取り上げて目の前で喰らって見せたが、その光景を見てさらに怖がってしまったため、それ以降ネルガルは天使の前では食事をしなくなった
二つ目に天使は賢いということ
天使が来て3日後
グリフが興味本意で持ってきた子供用の絵本を天使はとても気に入ったようで、グリフが興奮気味に天使に読み聞かせをしていた
「この子はとても賢いようです。もしかしたら私たちと喋れるようになるかもしれません!」
そう言って数々の絵本や教育本を大量に持ってきた時は気でも狂ったのかと疑ったが、意外にも天使は好奇心が旺盛なようで結構乗り気であった
天使はグリフの読み聞かせを熱心に聞いていて、ネルガルが仕事でいない時はよくグリフと言語の勉強をしているようだ
そのため、最初はグリフに食われかけて酷く警戒していたと言うのに、今ではネルガルよりもグリフによく懐いてしまったのだ
ネルガルはそれを不服に思うが、ネルガルは仕事をしない訳にはいかない
1日目にメイドが理性を失い、天使を喰らいかけたのを考えると
天使を部屋に1人にするのはよくない
唯一信頼できるグリフに子守りを頼むようになったが、まさかこんなにグリフに懐いてしまうとは思ってもみなかった
とくに決定的な差を作ったのは天使へ接する態度が大きく違うことだろうか
グリフは自分が食いかけたことも忘れ、天使を我が子のように扱うようになった。
確かに、毎日のようにネルガルの屋敷へ通い、医者の仕事そっちのけで天使に言葉を教えていれば、情くらい沸くだろう
グリフのお節介な性格上、仕方がないことだった
対してネルガルは全く違う態度をとっている
高圧的な態度、命令口調に荒い手付き
グリフとは正反対のその全てが天使を怖がらせていた
そもそも天使がこんなに長く生き延びるなんて思ってもいなかったのだ
ここに来た当初はすでに死にかけで
もって3日ほどだと思っていたのに、グリフの腕がいいのか、はたまた天使がかなりタフな体質なのか。
とにかく、子供を相手にしているようなグリフと、まるでペットを育てるような感覚のネルガルを比べては、どちらがいいかなんて一目瞭然だ
「まったく…誰のおかげで生きられていると思っているのか…」
「……?」
目の前の天使はネルガルの言葉に小さく首を傾ける
言葉はわかるくせに、こういう肝心なことは伝わらないものだとネルガルは、ため息をこぼした
三つ目に、天使は穢されるのが大嫌いということ
初日に無理矢理したのがそうとうトラウマになったらしく、ネルガルから近づこうとすると極度に警戒しだすのだ
体の調子がよくなるまではセックスはするな、とグリフに言われたが、ネルガルにとって天使は性欲処理道具に等しいのだから、抱かないという選択肢はない
夜になると震えだす天使を無理矢理ベッドに引き摺り込み、セックスするのも日課となった
だが、ネルガルもそれなりに自重しているつもりで、初日のように荒々しくはせず、なるべく優しく天使を抱く
それでもさすが天使といったところだろう
汚されることが何よりも嫌いな天使は、初日の様に大人しくしているわけがなく、泣いてネルガルから逃げ回る
あまりに暴れるようなら天使の両手を紐か何かでくくりつけるのだが、手首についた跡でグリフにバレてしまい、なんど注意されたことか
とにかく、1週間のうちにわかったことはこれくらいだ
天使の体調は日に日によくなっていき、すでに自分の足で歩き回る程度には回復していった
「よし、食い終わったな」
ネルガルは天使が全て食べ終わったのを確認して皿を机に置いて立ち上がる
その様子を見ていた天使はこの後何をされるのか悟ったようで、一目散にその場を離れようとするが、当然ネルガルから逃げることなどできず、すぐに腕を掴まれ動きを封じられてしまう
「ゔぅ〜」
「いい加減慣れたらどうだ。ったく、お前が天使じゃなかったらすぐにでも食い千切っていただろうな」
天使の腕を引き、向かう先はもちろんネルガルのベッドだ
猫のように唸る天使をベッドへ放り込むと、逃げ出さないように天使の両手首を片手で頭上に括り付けた
「今日はな、お前のためにいいものを持ってきてやったぞ」
そう言ってネルガルはポケットから小さな小瓶を取り出すと、天使の顔の前にかざして見せた
天使はなんなのかわからず、きょとんとした顔でキラキラと光を反射する瓶を見つめていたが、ネルガルが小瓶の蓋を開けた瞬間、
今までにないほど暴れ始めたのだ
「おい、暴れるな」
「ゔゔぅっ」
「まあ、さすがに匂いでわかっちまうか。本当は奴隷用なんだけどな、特別に強めの媚薬を取り寄せたんだ」
ネルガルが蓋を開けた瞬間、離れていてもわかる強烈な甘い匂いが部屋中に充満した
天使はその匂いに反応したのだろう
いやいやと顔を背けて、ネルガルの拘束から逃れようと必死に暴れ回る
「いい加減諦めろ。天使、お前のために用意したんだ」
暴れ回る天使に痺れを感じたネルガルは、天使の細い首に手をかけた
きゅっと少し締め付けてやれば、あっという間に天使は大人しくなる
「いい子だ。さあ、口を開けるんだ」
天使はネルガルをきつく睨みつけたが、ようやく諦めたのかしぶしぶ口を開いた
ネルガルは小さく開いた口にゆっくりと媚薬を流し込んでいく
やがて、小瓶の中身がすべて空になったタイミングで天使の喉が
ごくり
と上下した
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