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第10話

————ぴちゃん———— 「、ん……」 響くような水音と、身体中の痛みで目を覚ます 僕は、あれからどうしたのだろうか 暗闇が広がる視界で、できる限り覚えている記憶を懸命に辿って思い出す そうだ、僕はあの悪魔に薬を飲まされて… そこまで思い出して顔に熱が集まるのが自分でもわかった あんなこと、夢であって欲しいと思いつつも、身体中の節々から伝わる痛みが、そうではないと思い知らせる 「起きたか?天使」 先程から感じていた自分以外のもう1人の気配 目を瞑っていても誰だかわかるほど、狂気を放つ声 恐る恐る目を開けると案の定、あの悪魔の青年が天使の顔を覗いていた 確か名前はネルガルと言っただろうか どうやら、天使はあれから気を失ってしまったようで、今は椅子に座った状態でネルガルにもたれかかるように眠っていたのだと気づく そしてなぜか2人とも裸であることにも、 「起きたな」 バッシャンッ そう言うとネルガルは天使にいきなり水を被せてきた 「っ!?、ぷは、げほっ」 「っと、危ないな」 あまりに唐突なことに天使は対応しきれず、水を少量吸い込んでしまい、軽く咽せる 少々パニック状態になる天使を、ネルガルは後ろから抱きつくように支えたため、衝動で椅子から転げ落ちることがなかったのは幸いか 「気をつけろ、天使」 水をかけた張本人は悪びれる様子もなく、まるで天使が悪いかのように言うのでいい加減うんざりしてくる だが、天使は水を頭から被った事で、寝起きでぼやけていた思考が一気に覚醒する そういえば、一体ここはどこなのか 顔をぬぐいながら辺りを見渡すが、どう考えてもいつもの寝室ではなかった 薄く照らす照明と、タイル張りの床、湿った空気。 少し目線をずらせば、部屋の中心には大型の円形浴槽があり、中の湯からは白い湯気が立ち上っていた ここは…浴室? この悪魔に攫われてから1週間 その間、一度もあの寝室から出させてもらえなかったため、寝室以外の場所に来るのは今日が初めてだ そう思うと天使は今置かれている状況も忘れて、キョロキョロと辺りを見渡す そんな天使の反応を見てネルガルはくすくす笑いながら言った 「天使は風呂は初めてか?そうか、天界には風呂はないんだな」 そんな訳ないだろう 言おうと思ってやめた わざと天使を馬鹿にするように放たれた言葉に反論しようとしたが、 どうせ自分は声を出せないし、言えたところで、恐ろしい悪魔に口答えする勇気も天使は待ち合わせていなかった だが、そんな気持ちが顔に出てしまっていたのかネルガルは天使の顔を覗くと、 そう怒るな と宥めるように天使の頬を撫でた 「さて、洗うから大人しくしていろよ」 「…っん、んう」 ネルガルは頬から手を離すとあらかじめ常備されていたボトルからソープを出し、手で少し泡立ててから天使の頭に絡ませた 頭くらい自分で洗える、とネルガルの腕を掴んで意思表示をしたのだが、再びネルガルに 大人しくしろ と釘を刺すように言われてしまっては、腕を掴んだ手を下ろす他なかった 「んぁ…あ、…ん…」 だが、意外にもネルガルの手つきは優しく丁寧で、程よい気持ちよさがあり、特に耳の裏あたりを撫でられると、ゾクゾクとくすぐったさで体が震え、自然と声が漏れてしまう 「気持ちいいだろ?」 「ん……」 ネルガルはあまりの心地よさにウトウトしはじめる天使の顔を上に向かすと、湯が顔にかからないよう丁寧に泡を流すと、今度は天使の体を洗い始めた さすがにうつらうつらとしていた天使も、急に体を触られてパチリと目が覚める 咄嗟にネルガルの腕をつかみ、睨めつけるように見るが、やはり効果はなく、その手もすぐに引き剥がされてしまう 「洗うだけだ、いい子にしてろよ」 「んぅ、…あ」 ネルガルは丁寧に天使の体を磨いてく 背、腹、羽、腕、足、そして 「…勃ってるな」 「……っ!」 ネルガルに言われて初めて、天使は自分の性器が勃っていることに気づいた

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