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第13話

リュミエルが来てから2週間 初日とは見間違えるほど元気に回復していくリュミエルは、片方の羽がぼろぼろなことと、声が出せないこと以外は健全な天使そのものだった 一時は媚薬を飲ませて高熱を出した時もあったが、それすらもあっという間に完治してしまったのだから、天使の回復力は相当なものだった だが最近になってリュミエルはよく動き回るようになったため、ネルガルは脱走を恐れて、部屋の外に護衛を置いた 最も、それは人間の形ではなくどちらかと言うと犬よりで、 地獄の門番 別名ケルベロスと言う犬を置いた 一つの体に三つの首がついており、それぞれに意思があるが、皆賢いため躾がよく行き届いていた 普段はとても大きい個体だが、命じれば体を小さく萎縮できるため、今はネルガルの腰ほどの大きさだ 「こいつはケルベロスだ。襲ったりはしないが、お前が勝手な事したらそれを拒むようにできている」 「………ん」 「これから俺は少し出るが、リュミ。お前は部屋から出るな。いいな?」 こくこくと頷くリュミエルを見て安堵する リュミエルは最初こそケルベロスを怖がっていたが、自分を襲わない事に気がつくとケルベロスの首を優しく撫でた ケルベロスは尻尾を振り、三つの首をリュミエルの体に擦り寄せている 相性のほうも問題はないようだ 「こいつは外に置いておく。何かあったらこいつを呼べばいい」 ネルガルはリュミエルにそう言い残すと部屋を後にする 念の為部屋に頑丈な鍵をかけるとネルガルは飛び立って行った これから向かう場所に憂鬱としながらも、空の風を受ければある程度気を誤魔化せた しばらく飛んで見えてきたのは魔界の中心部にある大きな城であり、ネルガルの城より何倍ものデカさがある ここには魔界を統べる、王が住んでいるわけだが、なぜかネルガルはその王に気に入られているため、よくここに訪れる だが今日は月に一度、王を含め魔界を統べる7人の悪魔が集まって会議を開く日だった その7人の悪魔を7つの大罪と呼ぶが、ちなみにネルガルはその大罪には入っていない だからなおさらこの会議に参加しないといけない理由がわからないが、毎月の王の誘いを断るわけにはいかなかった 「遅かったなグズ、なぜお前なんかが高位なるこの場所に出入りできているのかわからんな」 「ああ、俺も、大罪でもないのに会議に参加しなくちゃいけない意味がわからん」 部屋に入って1番に突っかかって来るのはネルガルの兄、サタンである サタンは7つの大罪の中で憤怒を司る悪魔だ ネルガルは自分が生まれた時から今まで、サタンが怒っていない日を見たことがない 目に映ったもの全てに怒り、怒号を浴びせるが、なんせそれが生まれた時から続いてきたものだからネルガルはとっくに慣れてしまっていた 怒り狂う兄を素通りして、空いている椅子にドサリと座る 部屋には広いテーブルと装飾された椅子が並べられており、ネルガルが到着した頃には全ての大罪が座っていた ネルガルの兄、憤怒に続き、嫉妬、怠惰、向かいに強欲、暴食、欲情が囲うように並び、 1番奥、特段派手な玉座に座るのは、最も位の高い傲慢の悪魔。ルシファーだ  ルシファーはネルガルが座ったことを確認すると、口を開けた 「皆忙しい中集まっているのだネルガル。遅刻するとはいかがなものか」 「忙しい?座ってくっちゃべってるだけだろあんたら」 「ルシファー様に対して何だその口ぶりは!」 「そうだぞネルガルよ。お前は我らに対する敬意が足りん」 「うるせぇなほんと」 「うるさいだと!?」 「…もうよい皆の者、ネルガルも、次はないように」 「はいはい」 ルシファーの問いかけにネルガルが悪態を付けば次々に他の悪魔がネルガルを指摘する それを再びルシファーが止めた このくだりは毎度のことでネルガルはもう慣れたが、いちいち反応するのも面倒くさくなってきていた 悪魔たちは不服そうにするが、ルシファーが口を開けば皆一斉に黙り込む この魔界で1番強いのはルシファーであり、ここではルシファーが絶対だ ルシファーが命令すれば、この魔界にいる全ての悪魔が従うだろう だから皆、ルシファーには逆らえないのだ 「議題に入る前にネルガル、お前に聞きたいことがある」 「天使の話か?」 「…ああそうだ」 ネルガルが天使、と口に出した瞬間周りがざわつく 「やはり噂は本当だったのか」 「天使を飼っているというやつか?」 「そんなことして何になるというのだ」 ざわざわと6人が騒ぎ始まる中、サタンがネルガルに向かって一際大きな声で言った 「ハッ、天使を飼っているだと?恥知らずめ、そんなんで天使との戦争に勝てると思っているのか?」 「兄貴、俺は別に勝ちたいとも思わない。なんせ次の戦争に俺は参加しないつもりだからな」 その言葉を聞いてさらに周りがザワついた 「な、なぜだ!あんなに戦争好きなお前が…まさか、天使に情が移って殺せないとでも言うのか!?」 「そんなこと一言も言ってないだろ」 「ではいったい何だと言うのだ!」 いつも通りサタンはネルガルにこれでもかと怒鳴り散らすが、対してネルガルはまたか、というように退屈そうな顔をした それがまたサタンの逆鱗に触れたのだろう さらにヒートアップするサタンの怒鳴り声に合わせて、周りの悪魔達の非難の声も大きくなっていった 勘弁してくれ そう思った時、先に声をあげたのはネルガルではなくルシファーだった

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