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第14話
「黙るんだサタン!誰が喋っていいと許可をした」
「る、ルシファー様、ですが…」
「お前は私に口答えをするのか?」
「い、いえ…申し訳ございません」
そう言ってサタンは尻すぼみになりながらいそいそと座る
サタンが誰かに謝るところなんて見たことないネルガルは初めての光景に鼻で笑った
それを見てサタンが睨みを利かすが、先とは違って今は声を荒げることはできないようだ
愉快、爽快
この言葉がこれほど当てはまるのは今に違いないとネルガルは思った
「はぁ…」
一方ルシファーは長い溜め息を吐きつつもネルガルに向き直る
「して、ネルガルよ。戦争に参加しないのは何故だ。まさか、サタンの言う通り、情が移ったのではあるまいな?」
「だから、そんなんじゃねぇって。前は戦争が1番楽しかったが、今はもっと楽しいものを見つけたってだけだ」
「それが、お前の拾った天使と言うことか」
「その通り」
周りの悪魔達が驚愕の表情を浮かべているというのに対してネルガルは、まるで自慢話でもするように話す
その姿はまるで、珍しいものを見つけた子供がそれを見せびらかしているような、自信気な表情だった
「なら、その楽しみが無くなれば、再び戦争に参加すると言うことか」
「嫌な言い方だな」
ネルガルはニヤリと笑う
その姿を見てルシファーはやれやれ、と言った仕草を見せて降参だ、と言うように手をひらひらと仰いだ
「はあ…よかろう。お前に好きにするといい」
「ですが、ルシファー様!」
「異論は認めんぞサタンよ」
ルシファーが会議は終了だ。
と手を叩く
それを合図に悪魔達は不服そうにしながらも部屋を出ていくが、サタンだけはそうしなかった
「ルシファー様、あなたは何故そんなにもネルガルを甘やかすのですか」
「お前は何故そんなにもネルガルに戦わせたい?お前も大罪の1人なら、弟の力を借りず自らの力で勝利してみせよ」
ルシファーにそう言われてサタンは押し黙る
一応ネルガルとサタンは血縁関係となっており、ネルガルの功績は兄であり、さらに7つの大罪の1人であるサタンの賞賛へと繋がっていた
おかげでサタンに従える崇拝者は7つの大罪のメンバーの中で2番目に多く、ルシファーに続く数だったが、サタン自身の実力ではない
ルシファーはそのことを言っているのだろう
ネルガルに頼ってないで、自分自身で力を証明せよ
という意味なのだろう
ルシファーに痛い所を突かれたサタンは納得はしていないようだが、これ以上何を言っても無駄だと判断したのだろう
「あなたが何もしない気なら、私が手を下すまででしょう」
そう言ってサタンは部屋を出て行った
去り際ネルガルに、覚悟しておけ
と吐き捨てていくが当の本人は全く気にしていなかった
「どうにかならんのかお前の兄は」
「昔からああだ。相手にするだけ疲れるぞじいさん」
サタンがいなくなった瞬間、ルシファーはまるで気が抜けたように玉座に座り込んだ
疲れているのか目頭を揉む仕草をするルシファーだが、ネルガルはそんな事関係なさげに楽しそうに話す
「天使が来て2週間が経つんだが今だに不明なことが多い。あんたは堕天使だが腐っても元は天使だろ?わからないことを教えてほしい」
「2週間か…本当に天使を育てるつもりか?」
「ああ、初の試みだな、面白いだろう」
「はて、いつまで続くのやら」
小馬鹿に笑うルシファーは先ほどの威厳のある王の姿はなく、瞳からも鋭さがなっくなっていることから、かなりネルガルに気を許していることがわかる
「ここで話すのも何だ。少し散歩しよう」
ルシファーはネルガルと並んで部屋を出ると、ネルガルが気に入っている城にある中庭の噴水まで2人で歩いた
ルシファー表情はまるで孫と接しているように穏やかで、口調も普段よりも柔らかいものだった
ルシファーはネルガルの事を痛く気に入っていて、ネルガルを城に呼んではよくこうやって2人で話し合う
ネルガルはなぜ気に入られているのか知らないが本人にとっては、お節介なお爺さん的なマインドだと考えている
「天使の名前を考えたんだが、リュミエルと名付けることにした」
「[光]か、いいではないか」
「そうだろ?」
歩きながらネルガルはルシファーに色々なことを話した
もっとも、話の内容は天使の話ばかりだが、それでもルシファーは楽しそうに話を聞いてくれる
「それより天使は週に一度、天の光を浴びなければならないはずだが、リュミエルは光のないこの魔界でどうやって生かしておるのだ?」
「そうなのか?知らなかった。今まではあんたからもらった果物を与えていたんだが」
「ああ、あれか。あの果物は光で育っているから、それで耐えているのだな」
天の光とは、いわば天使達には欠かせない食事であり、光の届かないこの地獄で生きていくことは不可能だと言う
だが例外があり、それはルシファーが所有する庭園には天から光が差し込む場所が存在する
理由はルシファーも元は天使であるため光が必要だからだ
ついでにルシファーはその場所にエデンから盗んだ果物などを育てているが、その果物こそ、リュミエルが食していたものであり、ネルガルがルシファーに頼んで入手していたものだった
「だが、そのうち果物だけでは限界が来るぞ」
「なら週に一度、あんたの庭を貸してくれ。リュミに日光浴をさせる」
「あの場所は魔界で唯一神聖な場所であるぞ?いくらネルガルであろうと、私以外が出入りする事を簡単に許可する訳にはいかん」
「なら、何をすればいい?どうすれば庭園を貸してくれる?」
「大罪に入れ。ネルガルよ」
「嫌だ、それ以外にしてくれ」
ルシファーはネルガルに向き直り言うが、ネルガルは即答でそれを拒否した
元々、ネルガルは大罪の一員となり、8つの大罪になる予定だった
それはネルガルが天使共にとって1番効果的な弱みとなっていたからだ
通常、悪魔はなんらかの悪意を待って生まれる
妬み、嫉み、憎悪など様々だが、天使共はその悪意を終て殺せる聖なる力があった
だが、ネルガルにはそんなものは効かないも同然だった
理由は、ネルガルが待って生まれたのが、悪意の全くない無邪気という感情だったからだ
天使は悪意を殺すが、悪意のないものは殺せない
だからこそ、純粋な殺意を待つネルガルに天使は歯が立たず、戦時でも軍の前に立ち圧倒的な力で天使共を蹴散らした
ルシファーはそれを称して大罪にネルガルを誘うが、ネルガル自身は大罪の一員になることを強く拒否したのだ
それからルシファーは何度も大罪に誘うが、いくら良い条件であろうとネルガルは拒否し続けた
理由はただ一つ
めんどくさいからだった
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