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第16話

「よく来たネルガル。そして、リュミエルよ」 「悪いな遅くなっちまって。ほらリュミ、挨拶しな」 「起こしてやるな、疲れているんだろう」 ネルガルは腕の中に眠るリュミエルを起こそうとするが、ルシファーはそれを止める 「初めての外出なのだろう?仕方がないさ」 「そうなんだけどな。早くこいつの目を見せてやりたいんだ」 そういいながらリュミエルを抱いたネルガルとルシファーはゆっくり歩き出す 向かう先はもちろん、ルシファーの庭園だ 「茶色いんだ、珍しいだろ?」 「ふむ、確かに珍しいな」 歩きながらもネルガルは腕に眠るリュミエルのことばかりを話すが、ルシファーは飽きもせずネルガルの話に付き合う その間もリュミエルはぐっすり眠り、起きる気配が全くない 「ずいぶん懐かれているのだな。お前の腕で眠るなど、キモが座っておる」 「当たり前だろ。世話役はほとんど俺かグリフしかしないからな」 ネルガルは得意げに言うが、ルシファーは心の中ではまだ信じられずにいた 飽き性なネルガルがここまで夢中になる理由がわからない 見た感じ抱かれた天使は、そこらにいるような普通の天使だし、茶色の瞳と聞いたが、要はそれだけのことだ 天使に会えばわかると思っていたルシファーだったが、いざ会ってみても疑問が深まるばかりだった 「……ん、?」 「お、起きたな。ほらリュミ、ルシファーおじさんだぞ、挨拶しな」 「誰がおじさんだと?」 「いいじゃんか、俺からしたらあんたもうおじさんだよ」 魔界の王をおじさん呼ばわりなど、この世でネルガルしかいないだろう 他の悪魔なら激怒しているところだが、ネルガルに甘いルシファーは呆れるようにため息をつくだけだった 「そう怒るなよ、リュミが怖がるだろ?」 「怒ってもいないし、天使も怖がってなどいない」 「でもほら、震えてるぜ」 たしかにリュミエルを見るとネルガルの腕の中で小刻みに震えていた 目線はキョロキョロと辺りを彷徨っていて、ルシファーに怯えていると言うより、置かれた状況に戸惑っているように見えた ルシファーとリュミエルの視線がパチリと合うとより一層ネルガルに強くしがみついた 「ふぅむ、やはり怖いのだろうか」 「まあな。それより早く入ろうぜ」 しばしそんな事を話しながら歩けばあっという間にルシファーの庭園に着く ドーム状にガラスが張ってあり、上からは魔界に似つかわしくない日の光が、キラキラと反射する、美しい場所だ ルシファーがガラス扉を開け、ネルガルに先に入るよう誘導する ネルガルは目を丸くして固まる天使を抱えたまま扉を潜り、後にルシファーも続いた ドームの中は日の光が充満していて、ポカポカと温もりが全身に渡っていく ネルガルはドームの1番日の当たる場所までリュミエルを連れて行くと、驚いた表情でキョロキョロとあたりを見回すリュミエルをゆっくり地面に下ろした 「どうだリュミ、気持ちいいか?」 地面は一面真っ青な芝生が広がり花が咲き、まるで魔界とは思えないほどの穏やかな自然が広がっていた リュミエルは戸惑いながらも芝生を一撫でする 確かに芝生は本物で、生き生きと地面で揺れていた 「よっと…俺もここに入るのは久しぶりだな」 「ネルガル、あまり日に当たりすぎるとまた肌が荒れるぞ」 「ガキんころの話だろ。もう大丈夫だって」 ネルガルはそう言ってリュミエルの横でゴロリと仰向けに寝転がると、伸びをしながら目を閉じた その様子は普段の高貴な姿からは想像できないほど、幼い子供のような仕草だった ネルガルを見て、やれやれ、と肩をすくめたルシファーは、今度はネルガルの反対側のリュミエルの隣に腰掛ける 2人に挟まれてリュミエルはどうしていいかわからず、緊張で固まってしまった

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