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第17話
どうしよう…
リュミエルはこれまでにないほどの焦りと緊張を感じていた
それもそのはず、リュミエルの隣にはあの大悪魔、ルシファーが座っているのだから
リュミエルが生まれる前からずっと、魔界を統べる魔王として語り継がれ、リュミエル世代には、ほとんど伝説と貸していた本人が、今、目の前にいるのだ
横に寝そべるネルガルからはすぅすぅと、規則正しい寝息が聞こえてくる
今ならネルガルから逃げられると思っていたのに、横の大悪魔がリュミエルを見ているせいでそんなことはできない
このルシファーが本物なら、リュミエルなど、指先一つで首が飛ぶ
そのことを考えると、逃げるどころか身じろぎ一つできやしない
じわりと汗が滲むのが感覚でわかった
「………」
『緊張しているのか?』
その声を聞いてハッと顔をあげる
声の発信源であるルシファーにゆっくりと目線を向けた
今、天界の言葉を喋った…?
魔界には魔界語、天界にはまた別の言語がある
だからリュミエルは魔界の言葉は途切れ途切れにしか理解できないし、魔族たちも天使の言葉は通じない
だからこそ、この魔界ではっきり聞き取れる言語を聞けて、かなり驚いたのだ
あっけに取られて固まっていると、困ったようにルシファーはうなった
『ふぅむ、久しぶりに話すからな。やはり伝わらないか』
そう言ったルシファーの言葉にブンブンと首を横に振る
昔特有の訛りはあれど、問題なく聞き取れる
リュミエルのその反応を見て安心したようにルシファーは再び話し始める
『そうか。それは良かった』
ルシファーは優しくリュミエルを見つめる
その眼差しは、リュミエル達に言い伝えられてきた邪悪なものは一切感じ取れなかった
『さて、そろそろお前の声が聞きたいのだが』
「………」
リュミエルは弱々しく首を横に振る
今までもなんとか声を出そうと努力はしてきた。
だが、喉の痛みとは別に、言葉が奥でつっかえるような感覚があるせいで、いまだにはっきりとした声は出せない
リュミエルは喉を指差し、声が出ないことをルシファーにして見せた
その様子をみてルシファーは残念そうに、頷いた
『喋れないのか…どれ、見せてみろ』
そう言うといきなりリュミエルに急接近してきたルシファーに驚くが、後退りする間も無く口を開かされた
リュミエルは驚きと緊張で動けないまま、大人しく口を開けるしかなかった
『ふむ…舌はあるな。喉が焼けておるな、誰にやられたのだ?』
「あ、あぅ…」
『ああ、すまない、見過ぎたな』
遠慮なく口内を見られて、驚きと恥ずかしさに涙目になってしまったリュミエルに気づくと、慌ててすぐに手を離してくれた
なぜここの人達は急に距離を詰めるのか。かってに口内を覗かれていい気はしなかった
それにしても今まで聞いていた地獄の魔王の想像とはかなりかけ離れている
下手をすれば、この地獄のどの悪魔よりも、穏やかで優しい気がする
どうしてこんな人が堕天を……?
声が出るわけではないが、たとえ喋れたとしても、とてもじゃないが聞くことはできないだろう
リュミエルは心に思った疑問をぐっと飲み込んだ
『それにしても痛そうだ。悪魔にやられたのか?』
「………」
リュミエルはふるふると首を横に振った
『まさか天使どもにやられたのか?どうしてそんなことを』
そんなの、僕が聞きたい
僕は何も悪い事はしていない。罪を犯したこともないし、誰かを苦しめたわけでもない
ただ、みんなと目の色が違うだけ…
「治りそうか?」
リュミエルはビクッと肩を震わせた
いつから起きていたのだろう
さっきまで閉じていたネルガルの目からは、いつもの鋭い瞳が覗いき、2人をじっと見つめていた
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