19 / 38
第19話
リュミエルを飼ってから約3週間
リュミエルの容態はずいぶんとよくなり、最近はよくちょこまかと動き回るようになった
おそらく、庭園で浴びた天の光の力だろう
これほどまでに影響力があるとは知らなかったネルガルはかなり驚いた
そこで問題が一つ
ネルガルの部屋だけでは運動量が足りないとグリフに言われてしまったのだ
たしかにここまで動けるなら少しは運動させた方がいいし、リュミエルも退屈しているように思える
「よし、リュミ、少し散歩するぞ」
「おや、やっとですか?よかったねリュミちゃん。ピクニックの準備でもしますか?」
「いや、そんな時間はない。ただ歩かせるだけだ」
「えー!ケチ!リュミちゃんが可哀想です」
ぶーぶー文句を言うグリフを他所に、ネルガルはリュミエルに服を着させる
最近はネルガルやグリフを怖がることも少なくなり、大人しく服を着せてくれるようになったが、未だ服には慣れないらしいリュミエルのために、動きやすいラフな服を着せる
おそらく会話の内容を理解してるのだろう
期待と緊張が顔にありありと出ていた
「さっさと行くぞグリフ、リュミ」
「…ん」
名を呼ぶとリュミは軽くばんざいのポーズをする。抱っこの合図だ
ネルガルはリュミを抱き上げ、部屋を出るが、後ろからグリフがいまだ文句を言いながらもついて来る
さて、扉から浴室まではたまに通るからここはまだリュミエルは知っているはず
問題は一つ階段を降りた場所からだ
そこは一般の使用人も行き来する場所だ
つまり、リュミエルにとっては悪魔が歩き回る恐怖の場所だった
リュミエルの様子を伺いながらもゆっくり階段を降りていく
ギュッとネルガルに強く抱きつくリュミエルの顔は怯える猫のようで可愛らしかった
「さ、ここからは未知の世界ですね」
「ああ、準備はいいか?」
「………」
ネルガルはリュミエルに問う
リュミエルは答える代わりに、またギュッと抱きついてきた
ネルガルはそれを見て、ついに階段をおり、使用人のいる通路を歩き始めた
先ほどまで忙しなく行き交っていた使用人達はリュミエルの姿を見るなり、珍しさのあまり立ち止まる
その目は悪魔らしく、ギラリと光るものも多くある
天使のことは散々言い聞かせたため、襲いかかる者はいないだろうが、リュミエルにとっては目線だけでも恐怖だろう
ちらりとリュミを見るが、意外にもその顔は楽しそうなものだった
このごろ警戒心が薄れて肝が座ってきたな
「降りるか?」
「…ん!」
こくこくと頷くリュミエルを地面に下ろすと、おずおずとしながらもネルガルの横を手を繋ぎながら歩き始めた
「ああ可愛い。まるで我が子の成長を見ているようです」
「気持ち悪いことを言うなら帰れ」
「そんなこと言って、ネルガル様も嬉しいんですよね?」
「…黙れ」
流石にムカついて唸るように言うと、隣にいるリュミがビクッと驚き、不安そうに見上げてくるため、それ以上はしなかった
その様子を見てまたもやニヤニヤと笑うグリフは、後で八つ裂きにしてやる
そうこうしているうちに城の庭園に着く
ルシファーの庭園とは違い、何もないまっさらな庭だが、それでもリュミエルは嬉しそうに、小さな花や飛び回る小型の魔物を見つけては、ぴょんぴょんと跳ね回っていた
その様子をネルガルは黙って見ていたら、隣にいたグリフがボソリと呟く
「せめて、翼を治せてあげられればな…」
「馬鹿言え。それでは飛んで逃げてしまうだろう」
「逃げられるようなことをしているのですか?」
「………」
詰めるように聞いてくるグリフを無視してリュミエルを見つめる
たしかに片方の翼は羽が抜け落ち痛々しい
だがこればかりは仕方がない
季節が過ぎて、生え替わりを待つしかないのだ
逆に羽が抜けているだけでよかったのだ
骨や付け根が傷ついてしまうと、それこそ治る保証はない
対して羽は生え変わるのだ。焦ることはない
しばらくリュミエルを見ていると、側から使用人の1人が駆けつけてきてネルガルにおずおずと話しかける
「お取り込み中申し訳ありません。ネルガル様、サタン様からのお呼び出しが…」
「はあ、またかよ。…わかった、すぐに行く。グリフ、リュミエルを中にしまっとけ」
「えー!もうですか?私が見てるから大丈夫ですよ!」
「駄目だ、お前は頼りにならん。今日は大人しく帰っとけ」
「ちぇ、はいはい…リュミちゃーん!帰るよー!」
リュミエルをグリフに託し、ネルガルはその場を後にする
だが流石に時間が足りなさすぎる
なるべくリュミを頻繁に外に出してやれればいいのだが、ネルガルもグリフも四六時中リュミエルに付き添うことはできない
対策を考えなければ
そう思いながらも、ネルガルは兄の元へ向かうのだった
ともだちにシェアしよう!

