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第29話

⚠︎グロテスク表現、暴力表現が多く出てきます。苦手な方はご遠慮ください⚠︎ 「はっ…はっ…」 リュミエルは飛び起きた 体から滝のように汗が流れ、呼吸も荒い 今見た夢は実際に起きたこと。 どうして今まで忘れていたんだろう 沸々と、怒りや悲しみが湧いてくる ミカエルに対して。それから、これを忘れていた自分に対して。 リュミエルは汗を拭って辺りを見渡す そこはいつものネルガルの寝室で、ベルやネルガルの姿はなく、あの時自分は気絶してしまったのだと気づいた 起き上がるとリュミエルの喉はカラカラに渇いていたので、とりあえず水が飲みたい ベッドから這い出てふらふらと部屋の外を目指す いつもドアの前には、リュミエルが1人で外に出ないように必ず誰かがいるのだが、あろうことか今日は誰もいなかった 前はロスがいて、ロスと一緒なら屋敷の中は自由に動き回れたが、あの時以来ロスはこの屋敷を出禁にされてしまったようだ どうしよう 勝手に外に出たら怒られるし… こきゅっと喉がなる 汗をかいているため着替えも欲しい 少しくらいなら、いいよね リュミエルはそっと廊下に出てネルガルを探す ここで働く中級悪魔はときどき制御が効かず、リュミエルを襲う可能性があるため、リュミエルのいる2階には出入りが禁止だった そのため2階の廊下には誰もおらず、悪魔に会うためには1階に降りることが必要だ だが襲われるのは避けたい グリフかネルガルがいればいいが、見当たらなければ諦めよう そう思い階段に向かって歩いていたその時 「お前が例の天使か?」 背後から声がしてバッと後ろを向くと、そこには背の高い悪魔が1人立っていた 悪魔の髪は燃えるように赤く、額には大きな角が3本バランスよく生えており、顔はどことなくネルガルに似ていた ネルガルの知り合いだろうか でも、雰囲気があまり友好的ではない ネルガルやベルのような者からでは感じられない、背筋が凍るような冷たい視線がリュミエルを見据える 彼からはハッキリと、リュミエルに対する殺意が伺えた これは、やばい リュミエルは本能的に悟ってからは早かった とにかく誰でもいい 中級でも低級でもいいから、誰かに助けを求めないといけないと思い、リュミエルは階段に向かって走り出したが 「逃げるなんて、いい度胸だな?」 「…っうぐ!」 だがリュミエルはいとも簡単に捕まった なんとか逃れようともがいてみるが、悪魔にとってそんなもの抵抗にすらならなかった 「一緒に来てもらうぞ」 「い"っ、ぅう…」 悪魔はリュミエルの首根を掴むと、廊下側の窓から外へ一気に飛び出した 「ぐっ、ひゅっ」 悪魔は大きな羽を広げ空を舞うが、首根を掴まれたまま宙ぶらりん状態のリュミエルは首が締まり、息を吸うため必死に悪魔の腕にしがみついた 「全く穢らわしい。こんなもののどこがいいのか」 悪魔は必死な様子のリュミエルを鼻で笑う そろそろリュミエルの体力が限界になったところで、悪魔は止まり地面を見た 「ここら辺でいいだろう。じゃあな、哀れな天使よ。恨むんだったらネルガルを恨め」 そう言って悪魔はリュミエルを放り投げた いきなりのことにリュミエルは驚き、咄嗟に自身の羽を動かすが、長らく使っていなかった羽では上手く飛ぶことができず、地上に落ちていった 「い"っ、かはっ」 それほど高くない場所から、地面に着く前に懸命に羽を動かしたため、落ちた衝撃は和らいだが、それでも上手く着地できず打ち付けられた体が痛みに悶えた 「なあ、あれって…」 「ん?…おい、おいおいマジかよ!?天使が落ちてるぜ!」 「まさかこんなご馳走様にありつけるなんて!」 リュミエルが痛みにうずくまっていると側で誰かの声がする 見上げると、いかにも低級といった悪魔が3人、リュミエルを見下ろしていた 逃げないと そう思うのに上手く肺が使えず息ができない体では這って動くのが精一杯だった 「あーあー、可哀想に、怯えてるぜ」 「俺がすぐに楽にしてやるからな」 そう言って悪魔の1人に髪を鷲掴みにされ持ち上げられる 背中がのけぞる形になりさらに痛みが増して、苦痛に顔を歪めると、悪魔はゴクリと喉を鳴らした 「…おい、一発ヤってから食おうぜ」 「はあ?誰がテメェのブツ挿れたもん食えんだよ」 「じゃあ頭の方食えばいいだろ」 「肉が少ねぇよ。てかそんな問題じゃねぇし」 「なあもう食っていい?我慢できねぇよ」 「おい!何勝手に食おうとしてんだ!?俺んだぞ!」 「馬鹿言え1番先に見つけたのは俺だ!」 3人の悪魔はリュミエルを取り囲み恐ろしい論争を巻き起こす 死を目前にして恐怖で動けないリュミエルをいい事に、悪魔達の言い争いはさらり火力が増していった その間も悪魔がリュミエルの腕を掴んでいるため逃げることはできない 嫌だ、死にたくない せっかく生き残ったのに レイアのためにも、僕は生き残らなければならないのだ リュミエルの中で何かが弾ける それはとても力強く、リュミエルを動かす確かな原動力。 生きたいという感情だった リュミエルは咄嗟に悪魔の腕に噛みついた 「い"っでぇ!このっ」 悪魔は痛みに驚いたのか、反動でリュミエルの腕を離す リュミエルはその隙を逃さず、一目散に走り出した 「逃げたぞ!何やってんだよ!」 「んなこと言ってねぇで早く追いかけろよカス!」 リュミエルは羽を動かして懸命に飛ぼうとするが、落ちた衝撃でどこか傷つけたのか、痛みが襲い上手くできない 低く飛んで、落ちて、また飛んでを繰り返していたが、それも虚しく、再び悪魔達に捕まり取り押さえられてしまった 「手間かけさせやがって」 「せっかく楽に殺してやろうと思ってたのに。小鳥ちゃんは苦しんで死にたいのか?」 うつ伏せの状態で捕らえられ、背中を汚い手が押さえつける 耳元で下品な笑い声が聞こえて鳥肌が立つ もう、ここまでなのか そう思った時 「どけ」 低く、聞き慣れた声が頭上からして、リュミエルはハッとした するとリュミエルを押さえつけていた悪魔の重みが一気になくなり、リュミエルの自由がきくようになった ネルガルだ。ネルガルが助けに来た! リュミエルは途端に希望を取り戻したように、自ら起き上がってネルガルを見上げるが、そこにいたのは、いつものネルガルではなかった 「に、2本角!?なんでこんなとこに!」 「逃げなきゃ、逃げな…うぐぅっ」 ネルガルを見た悪魔たちは一目散に逃げ出すが、それはネルガルによって阻止された 1番最初に逃げ出した悪魔はネルガルに一瞬で追いつかれ、ネルガルの腕が悪魔の腹を突き破った 痛みに悶える悪魔などお構いなしに、ネルガルは悪魔を投げ飛ばす その先にいたもう1人の悪魔にぶつかり、リュミエルの前で、まるで水風船同士が割れるように、ブチュッと音を出して破裂した 四肢や肉が飛び散り、リュミエルの顔にもかかる あまりにもグロテスクな光景にリュミエルは瞬きもできずに固まった それは残された悪魔も同じようで、仲間の無惨な姿に腰を抜かし、近づいてくるネルガルから逃げられずにいた 「ひぃっ、ゆ、許してくれ!そ、そうだ!天使!そこの天使をやるから見逃してくれっ」 「やる、だと?笑わせるな」 「これは、俺の物だ」 そう言ったネルガルは、悪魔の頭を下から蹴り上げた 悪魔の頭は高く高く宙へ飛び、地面に落ちるとボールのように、ポーン、ポーンと何度か跳ねた その度に真っ赤な何かが飛び散って地面を赤く染め上げた 残された体はピクッピクッと小刻みに震え、パタリと倒れると栓がぬけたように首からぴゅーと血が噴き出ていた 全てを片付けたネルガルは、リュミエルの方へ向くと、無言でゆっくり近づいてくる リュミエルはあまりの恐怖に後ずさる 血だらけのネルガルの姿は本来の悪魔そのもので、今までに感じたことのない殺意が感じられた 怖い、怖い、怖い! リュミエルはネルガルから逃げたいのに、体が震え言うことを聞かず、その間にネルガルにグッと距離を縮められる すぐに追いついたネルガルは、立ち上がれないリュミエルの足を思いっきり引っ張り自分へ寄せ、リュミエルに覆い被さった リュミエルとネルガルの目が合う いつもならここで笑ってくれるのに、今は凍てつくような視線でリュミエルを睨んでいた 何故まだ怒っているの? 悪魔は全員いなくなったのに、どうして僕にまで殺気を向けるんだ 早く帰ろうよ。連れて行ってよ。 恐怖を感じていてもネルガルを信用していたリュミエルは、そう思い震える手でネルガルの頬にそっと触れるが、対するネルガルは無表情のままだった リュミエルは訳もわからず、ネルガルの機嫌を取ろうとあたふたして自然と涙が出てくる そんなリュミエルにネルガルは冷たい声で言い放った 「逃げたな?リュミエル」 「…ぅ?」 「この翼が使えることを隠して、俺から逃げる隙を探ってたんだろ?」 「んぐっ、うぅ」 ネルガルはリュミエルをひっくり返すとうつ伏せになるように押さえつける そしてリュミエルの白い翼に触れ、ゆっくり撫でた 「俺を信用させて、騙して、馬鹿にしてたんだろ?」 「うぅっ!んーっ!」 違う、誤解だ、話を聞いて そう伝えたいのにやはりリュミエルの喉からは音が出なくて、こんな時でさえ、言葉を発せられない自分に嫌気が指した 「はなから逃げるつもりだったんだな?…なあそうだろ!!」 「ひぅ!い、んん!」 ネルガルはリュミエルの翼の根本を思いっきり掴んだ 天使にとって敏感なそこはあまりに刺激が強く、リュミエルの体はビクッビクッと震える ネルガルはそんなことお構いなしに、冷たく言い放った 「いらないよな?」 そう言って、ネルガルは翼の根本をより一層強く握った まさか、まさか リュミエルは一層激しく暴れた ネルガルに強く押さえつけられても、その場から逃げようと必死にもがいた ギリっと押さえられた箇所の骨が軋んでも、これから来る痛みを想像すればそんなことどうでもよかった こんなネルガル、ネルガルじゃない 怖い、怖い! 「ああ"あ"あ"あ"っっ!!」 リュミエルの思いも虚しく、ネルガルは翼を掴む手に力を入れた 痛みに悶えて叫ぶリュミエルの体をネルガルは地面に縫い付け、さらに握る力を強めた 最初はボキッ、ボキッと翼の骨が折れる音がした それはあまりに簡単で、脆く、ネルガルには造作もない それでもリュミエルの苦痛は壮絶なものだった 「いい"っうぐっ———っっ!?」 ネルガルは構わず力を入れる リュミエルの翼の根本は骨が折れてグニャグニャになっていたが、ネルガルの力は緩むことはなかった そのうちリュミエルの背からミチミチと別の音が鳴った 皮膚が、肉が、神経が引きちぎられていく音だ 痛い!痛い痛い!! リュミエルはもはや叫ぶことすらできない 痙攣する体に鞭打って土を掻き、懸命にネルガルから逃れようと暴れた それでもネルガルはやめてくれない ブチブチブチっ———— ついにリュミエルの耳にはなんとも残酷な音が響いた もう翼がどうなっているか自分でもわからない だがその時、ぷつんっと頭で何かが千切れて、痛みが一切感じなくなった やっとのことで苦痛から解放されたリュミエルは脱力し、まるで眠るように意識を手放した

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