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第一章(二)鍵屋の休日

 日下(くさか)ロックサービスは月に一回定休日があったが、優一(ゆういち)は店を閉めている時も仕事の依頼を請けていたので、実質年中無休のようなものである。  優一は三百六十五日、二十四時間。  とりたてて理由のない時は、いつでも依頼先に駆けつけた。  その為、優一は何かあってもすぐ仕事に行けるようにと、店の二階に住んでいる。  以前は妻の景子(けいこ)と二人で住んでいたのだが、景子が突然の事故で死んでからは、そこに一人で暮らすようになった。  優一は景子の事をとても愛していたので、景子を失った時、激しい悲しみと言い知れぬ喪失感に襲われた。  いつしか、優一は心の穴を埋めるように、景子に抱いていた感情を嫁の(めぐみ)に向けるようになったが、それが叶わぬ思いだという事は、優一もよく分かっている。  そんな優一の思いの行き着いた先が、恵とよく似た顔をした孫息子の(みゆき)だった。  そして、その思いは歪んだ愛情となって、幸に(そそ)がれるようになっていった。  優一は、恵が店に来なくなってからは自制が効かなくなり、幸に性的な悪戯(いたずら)をするようになった。  幸が不登校で毎日店に来ていた事も、優一にとっては都合が良かった。  優一は手が空いている時は、鍵の開け方を教えると言う名目で、幸を奥の部屋に連れ込むようになった。  確かに、優一は仕事を教えてもいたが、教えるのはそれだけではない。  そして、初めはただ触るだけだった行為がどんどんエスカレートして行った。  その日は、ちょうど店が休みだった事もあり、優一は自室で電話を待つ(かたわ)ら、幸を膝に乗せて仕事を教えていたが、自室に二人きりという状況も相まって、それだけでは我慢が出来なくなって来た。 「これはここまでにして、もっと楽しい事をしようか」  優一は幸の手から道具を取り上げると、ちゃぶ台に置いた。 「え?」  いつもは店の終わる時間まで教えて貰っていたので、幸は不思議そうに優一を見る。 「また後で教えてあげるから」  優一はそう言って、幸を布団に寝かせた。  状況が分からず戸惑う幸に、優一が優しく口付ける。 「怖くないから大丈夫だよ」  そして、優一は幸のズボンを脱がせると、幸の股間を()め始めた。  優一がこんな事をして来たのは初めての事で、幸は怖くて恥ずかしくて堪らなかった。 「おじいさん気持ち悪い」  幸は、優一の頭を押すが、優一は気にする風もなく一層音を立てて舐め続ける。 「やめて」  優一は何度目かの制止で顔を上げた。  そして、幸の顔をまじまじと見る。  見れば見るほど、幸は恵によく似ていた。 「しばらくすると気持ち良くなるから」  優一はそう言って、幸のシャツを脱がせると、口付けながら体中を()でまわす。  幸は、嫌で嫌で堪らなかったが、大好きな優一のする事だからと、おとなしく愛撫(あいぶ)を受け入れる事にした。  その時、日下はたまたま用があって、優一の部屋に向かう途中だった。  日下がいつものように階段を上がっていると、二階から幸の声が聞こえて来る。  普段は(ほとん)ど喋らない幸が、外に聞こえる程の声を出すのは珍しい事だったので、(いぶか)しく思い、声をかけずに少しだけ戸を透かして(のぞ)き見た。  すると、そこには裸の幸を抱く優一の姿があった。 「やっ」  優一の愛撫に幸が体を()らす。 「可愛いな」  そして、優一は幸の耳元で(ささや)いた。  日下も優一が幸に手を出しているのを知ってはいたが、これ程までに(みだ)らな行為をしているとは思ってもみなかった。  ただ触っているだけでも不快だったのに、優一と幸のそれは、男女の営みそのものだったのだから、最早(もはや)不快どころの騒ぎではない。  日下は、自分の父親の節操のなさを軽蔑すると同時に、優一に抱かれて嬌態(きょうたい)を見せる幸にも激しい怒りを覚えた。  そもそも日下は、優一が恵の代わりとして、幸に手を出していると思っていたのだ。  だから、日下の目には、二人の行為が恵を(けが)しているようにしか見えなかった。  日下は、あれは自分の父親でもなければ、自分の息子でもないと思った。  日下はそっと戸を閉めると、音を立てないように階段を降りた。

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