3 / 103
第一章(三)日下の思うところ
あの後、優一 は流石にやり過ぎたと思い、念の為、幸 に口止めをしておく事にした。
「これは愛し合っている二人がする事なんだ。僕と幸が仲がいいとお父さんが嫌がるからね。だから、二人だけの秘密にするんだよ。いいね」
幸は、大好きな優一の言う事だからと、疑いもせず素直に頷 いた。
しかし、この時の優一の言葉は、周りに知られたら幸に手を出せなくなると、そんな打算にまみれたものだった。
それに気付かず騙される幸は、優一にとって都合のいい存在でしかない。
「いい子だ」
優一はほくそ笑んで幸の頭を撫 でる。
幸はそんな事とは知らず、褒められた事が嬉しくて目を細めて優一を見た。
翌日も幸は店に来た。
その日は、店が開いていたので、優一も昨日のように大胆な行動には出られなかったが、日下が仕事で店を留守にすると、いつも以上にスキンシップをはかった。
優一はいつものように幸を店の奥に連れ込むと、仕事を教える振りで、幸に自分の股間を擦 り付け、荒い息を吐きながら、シャツの下に手を入れて幸の体を直接手で撫で回す。
これでは、幸が鍵開の練習をしようにも、手が震えて出来たものではない。
「おじいさん、動くと鍵が開けにくいよ」
しかし、優一は聞き入れるどころか、かえって幸のズボンに手を入れて股間を触り始めた。
「これは、どんな時でも開けられるようにする訓練でもあるんだよ」
そして、適当な事を囁 いて、幸の首筋に舌を這 わせた。
日下 が仕事から帰って奥の部屋に行くと、優一は慌てたように幸から離れた。
しかし、幸の顔は上気して服も気崩れており、二人が何をしていたかなど一目瞭然 だ。
日下は、昨日見た二人の行為を思い出して憤りを感じたが、優一が怖くて何も言う事が出来ない。
その代わりに、心の中で忌々 しそうに舌打ちをして、二人から目を逸 らすと「店に出とく」とだけ言って和室を後にした。
昼を少し回った頃、仕事も一段落したので、優一はいつものように幸を膝 に乗せて弁当を食べ始めた。
「そんなに、ベタベタする必要があるのか?」
二人の様子に苛立ちを覚え、日下はつい口を出してしまったが、優一は全く気にする素振りも見せない。
「何を今更」
優一はそう言って、気にも止めずに箸 を進めた。
幸は不穏な空気を感じ取り、困惑して日下の顔を見る。
「あの……」
しかし、日下はそれを無視して、幸から顔を背けた。
「俺は少し体調が悪いから、家に帰るよ」
そして、仮病を使ってこの場から逃げ出した。
「ただいま」
日下がアパートの部屋に戻ると、奥から恵 が慌てて出て来た。
「修 さんどうしたの?」
「恵」
日下は玄関を入ったところで、恵を抱きしめて激しく口付けた。
恵は驚いて押し戻そうとするが、日下はその手をしっかりと掴んだ。
「どうしたの?」
日下はその問いには答えず、恵をその場に押し倒した。
「恵は俺のものだ」
優一は、日下が帰った理由は、奥で幸と遊んでいたところを見たからだと考えていた。
しかし、日下は前々から、幸との関係に気付いていたのだから、優一も何を今更と思わないでもない。
それでも、日下が早退するほど腹を立てたとすれば、今回少しやり過ぎたからなのだろうと思い、優一は深く考えようとしなかった。
食事が急に重い空気に包まれ、幸は箸を持ったまま、どうしていいか分からず戸惑いがちに優一を見る。
「お父さんどうしたんだろう?」
しかし、優一は慌てるでもなく、落ち着いた声で幸に告げる。
「仕事が忙しかったから疲れたんじゃないかな?」
けれど、幸は心配で仕方がない。
「ちょっと見に行って来る」
そう言って、幸が出て行こうとするのを優一が止めた。
「大丈夫だよ。ゆっくり休ませてあげよう。きっとお母さんが看病してくれているよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
そして、優一は幸に笑顔を向ける。
「食事が済んだらおやつを食べようか。幸の好きなお菓子を買ってあるんだ」
「はい」
返事をする幸の声は、先程より少し明るくなる。
そして、二人が食事を終えて菓子を食べていると、店の扉が開く「カラン」という音がした。
「ちょっと待っててね」
優一は幸を立たせると、表に出て行った。
「いらっしゃいませ」
ともだちにシェアしよう!