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第一章(五)未来の鍵師

 報酬を貰って店に帰ると、店の前に男が立っていた。 「うちに用ですか?」  優一(ゆういち)が声をかけると、男は安堵(あんど)したように顔を綻ばせた。 「良かった。鍵が壊れてしまって家に入れなかったんだ」  男は折れた鍵を両手に乗せて優一に見せた。 「それは大変ですね。どうぞ入ってください」  優一は店の鍵を開けると、男を中に通して鍵を預かった。 「安心してください。すぐに直りますよ」 「助かるよ」  やり取りの間中、(みゆき)は困ったように入口でもぞもぞしていた。  優一の元に行くには、男の横を通らなければならないのだが、幸はそれが怖かったのだ。 「幸、おいで」  呼ばれて、幸はびくびくしながらも、そろりそろりと優一の方へ歩いて行った。  そして、優一の元にたどり着くと、急いで背中にしがみついた。  男は幸を見て笑顔になる。 「可愛いね。お嬢ちゃん、歳はいくつだい?」  聞かれて、幸は服を持つ手に力を入れた。  優一はそんな幸をなだめるように、頭を軽く叩く。 「この子は男の子なんですよ」  優一に言われて、男は驚いたように目を見開いた。 「へえ。随分(ずいぶん)可愛い子だね」  男がおいでと手を出すが、幸は優一にしがみついて離れようとはしなかった。 「人見知りなんですよ」  優一は頭をかきながらも笑みがこぼれてしまう。 「この子は今修行中なんですよ。一緒に作業しても大丈夫ですか?」  優一は男に尋ねた。 「ああ。全然かまわないよ」  男の許可をとると、優一は幸を椅子に立たせた。 「作業を見るのは、初めてだったね」  幸は目の前で作業する優一の手元をじっと見て、作業が終わるまで全く目を離す事がなかった。 「お待たせしました。出来ましたよ」  優一は直したばかりの鍵を男に渡す。 「追加料金がかかりますが、合鍵は必要ですか?」 「ああ。ついでに頼む」  優一は男を見送ると幸に向き直った。 「幸は未来の鍵師(かぎし)だな」  幸は嬉しそうに微笑んだ。 「もう少し大きくなったら僕と一緒に働くかい?」 「はい」  幸はとても嬉しそうに笑った。 「いい子だ」  優一は幸の頭に手をおいて、髪をくしゃくしゃにした。

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