21 / 103

第一章(二十一)手作り弁当

 (めぐみ)は月に一度は必ず、工面(くめん)して貰っている金を受け取りに優一(ゆういち)の店を訪れた。  その日はパート帰りにそのまま店に寄って、夕飯を三人で食べるのが習慣になっていた。  他の日も様子を伺いには来るが、万が一にも日下(くさか)にバレてはいけないと、顔を見て帰るくらいしか出来なかったので、この日は母子(おやこ)でゆっくり会える唯一の時間だった。  そして、今日は恵が店に来る日だったので、優一も(みゆき)もそわそわしていた。  恵が来るのは、大体十九時半で、店の閉店時間は十九時なので、いつもはゆっくりと出迎える事が出来るのだが、終わるのが少し遅くなったのでバタバタしてしまった。 「こんばんは。あまり来られなくてすみません」  恵が顔を出すと、まず幸が迎えに出た。 「お母さん!」 「幸。久しぶり」  幸が恵の傍に走って行くと、恵は軽く抱きしめて背中を叩いた。  その後、店の片付けを終えてから、優一がゆっくりと顔を出す。 「恵ちゃんこんばんは。その後はどんなだい?」  優一の問いかけに、恵は苦笑する。  幸を優一が引き取った日、日下は酷く腹を立てた。  恵が例の一件を優一に話したのは明白だったし、そもそもの発端は優一が幸を抱いた事なのだから、腹を立てるのも無理はなかった。  それを知った時、日下は酔っ払っていた事もあって、とうとう恵を平手で叩いてしまった。  しかし、手を上げたのはその一度きりで、以降は代わりに、酷く酔った時だけではあるが、物にあたるようになって、それがずっと続いている感じだった。 「あれからは、相変わらずです」 「そうか。すまないね」 「そんな。こっちこそすみません」  優一に謝られて、恵が申し訳なさそうに言う。  しかし、優一がこの状態を作り出した元凶なのだから、お金や幸の面倒を見るくらいは当然の事だし、むしろそれだけでは釣り合わないような事をしているのだ。  それに、優一は恵に恋心を抱き、幸に手を出す事でその気持ちを満たしているので、恵に月に一度会える上に、幸を毎晩抱ける今の状況は、むしろ喜ばしい事だった。 「気にしなくていいよ」  けれど、何も知らない恵は、助けて貰っているとばかり思っていたから、少しでも何か出来ればと思ってしまう。 「こんな事しか出来ませんが」  恵はそう言いながら、朝作っておいた弁当を差し出した。 「いつも悪いね」  優一はさり気なく恵の手に触れつつ、弁当を受け取った。  優一は茶を入れると、和室のちゃぶ台に温めた弁当を並べた。  恵の作る料理は、亡くなった母親の影響で和食が多い。  そして、幸も恵の影響で和食が好きだった。  しかし、優一のところでは出来合いの弁当ばかり食べていたので、恵の弁当は幸にとっては、大のご馳走だった。  里芋の煮付けに、きんぴらごぼう、牛肉のしぐれ煮、ほうれん草の胡麻和(ごまあ)えが、今回の弁当の内容だった。  幸は豪勢なおかずに目を輝かせた。 「お母さんありがとう」  その後、皆で手を合わせて、食事をしながら、団欒(だんらん)のひと時を過ごした。 「幸、おじいさんの言う事を聞いていい子にしてる?」 「はい。いい子にしてるよ」  むしろ、幸はいい子すぎるくらいだ。  それが元で、優一にいいように利用されている事など、恵には想像もつかないに違いない。  しかも、優一はこの日の夜は、幸を恵に重ね合わせて、いつも以上に激しく抱くのだ。  それでも、全く抵抗しない幸は、優一にとっては都合のいい子だった。 「仕事も出来るし、助かってるよ」  しかし、優一はそんな事はおくびにも出さず、涼しい顔で返事をした。  そして、会話をしながら、さり気なく恵を観察する。  セーターはピッタリとしているので、恵の華奢な体のラインがハッキリと分かった。  こぶりな胸にくびれたウエスト、そこから繋がるヒップのライン。  優一は、幸にはないそれらの特徴を脳裏に焼き付けた。  食事が終わると、恵は頭を下げて、何度も礼を言いながら家に帰って行った。  優一は、寂しそうに目を伏せる幸を後ろから抱きしめる。 「僕が慰めてあげるよ。だから、上に行こうか」  そして、もう我慢出来ないと膨らんだ股間を押し付けて、幸に荒い息を吐きかけた。

ともだちにシェアしよう!