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幸福論 第二章(二)八つ当たり | 汐なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
幸福論
第二章(二)八つ当たり
作者:
汐なぎ
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第二章(二)八つ当たり
日下
(
くさか
)
は、
恵
(
めぐみ
)
が水商売を始めるようになってから、いままで以上に荒れるようになった。 この日も、日下は酷く酔って帰って来ると、
幸
(
みゆき
)
の部屋のドアを乱暴に開けた。 「こんな事になったのは全部お前の
所為
(
せい
)
だ!」 そして、寝ている幸を起こしてベッドから引きずり下ろすと、床に向かって投げ飛ばした。 日下は、恵が水商売をするようになり、ほとんど顔を合わせる事がなくなったのが、不満で仕方がなかったのだ。 こうなったのは、働かずに飲み歩いている自分が悪いのだが、日下は全て優一と幸の所為だと思い込み、その
鬱憤
(
うっぷん
)
を幸に叩きつけた。 「お前が全部壊したんだ!」 日下は喚き散らしながら、幸に暴行をくわえ続けた。 「ごめんなさい。ごめんなさい」 幸は痛くて怖くて、ひたすら謝り続けた。 「ジジイと一緒にお前も死ねば良かったんだ!」 日下は幸を壁に投げ飛ばすと、やっと気持ちが落ち着いたのか、寝室に行ってベッドで横になった。 幸は日下から解放されたが、痛くて怖くて、体を震わせて座り込んだまま、立ち上がる事が出来なかった。 そして、そのまま恵の帰りを待った。 この頃には、恵は日下への愛情など冷めていて、ただ行くところがないから家に帰るというだけだった。 恵は仕事で強くもない酒を飲んで、心身ともに疲れていた。 「おかえりなさい」 恵が帰って来ると、幸は床に座り込んだまま出迎えた。 「また、怒らせたの?」 恵は傷付いた幸を気遣うでもなく、冷めた目で見下ろす。 それに、幸は首を横に振った。 「分からない」 幸は、日下が優一と寝ていた事で怒っていたのは知っているが、どうしていつまでも機嫌が直らないのか分からなかった。 「幸が怒らせるから、お父さんが暴れるんでしょ?」 恵のイライラした声に、幸は不安そうな顔になる。 「お母さん?」 幸が呼びかけると、恵は声を荒らげた。 「学校にも行かずにフラフラして! おじいさんとの事だって、全部幸の所為じゃない!」 昼も夜も働いて、家に帰れば日下は酒を飲んで暴れている。 もう、恵も限界だった。 「幸もお金を稼いできなさいよ」 言った後、恵はハッとなって口を閉ざした。 「ごめん。忘れて」 そして、慌ててバスルームに消えた。 恵は仕事中に、客から児童売春の話を持ちかけられた。 客は、恵に息子がいる事を知ると、息子に売春させた方が水商売で働くより稼げると言ってきたのだ。 『あやちゃん似なら可愛いだろうし、子供は小さいほど高く売れるんだ。何なら僕が買ってもいい』 「あや」というのは恵の
源氏名
(
げんじな
)
だ。 客は幸の事が気になるようで、恵に息子を売るようしきりに勧めてきた。 そして、一晩幸を買う代金としてとんでもない額を提示してきたので、恵は子供にそんな値段がつく事にとても驚いた。 もちろん、恵は断ったのだが、それを思い出して、ふと口をついて出てしまったのだ。 恵はシャワーを浴びて、何とか気持ちを落ち着かせると、まだ床に座り込んでいる幸に、疲れた笑みを向けた。 「食事した?」 聞かれて、幸は頷いた。 「お弁当食べたよ。ありがとう」 「お腹空いてない?」 「空いてない」 幸は涙を流しながら笑った。 「ごめんね」 恵は幸を抱きしめて涙を流した。 しかし、幸には、恵がどうして謝っているのか分からなかった。 「どうしたの?」 幸が心配して声をかけると、恵は幸の肩をポンと叩いて立ち上がった。 「寝ようか」 そして、二人で幸のベッドで眠った。
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汐なぎ
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