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幸福論 第二章(四)新しい出会い | 汐なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
幸福論
第二章(四)新しい出会い
作者:
汐なぎ
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29 / 103
第二章(四)新しい出会い
幸
(
みゆき
)
は、息の詰まるような毎日を耐えるのに必死だった。 大人しくしていれば、
日下
(
くさか
)
の暴力も少しは軽くなったが、それでも怖くて悲しい事に違いはなかった。 ある日、幸は外の空気が吸いたくなって、夜中にこっそり家を抜け出した。 何となく
優一
(
ゆういち
)
の店があった場所に行ってみたが、そこには建物すら残っていなかった。 それから、懐かしい場所を巡るように、今度は昔よく家族で遊んだ公園に向かった。 夜の公園は静まり返っていて、昔来た時とは様子が違っていたが、それでも何か懐かしい気がした。 幸はそのまま公園に入ると、近くのベンチに腰をおろして、額の汗をシャツで拭った。 この日は暑い季節だった上に、歩き回った所為もあって、体中に汗をかいていたのだ。 しかし、拭いた後から汗が流れて来て、いくら拭いても追いつかない。 そんな時、誰かが幸にタオルを差し出した。 「どうぞ」 声をかけられて、幸が顔を上げると、ジャージを着た優一と同じくらいの歳の男が立っていた。 「あ、ありがとう、ございます」 幸はしどろもどろになりながら、男からタオルを受け取ると、流れる汗を拭いた。 「隣、いい?」 幸はこくりと頷いた。 「こんな夜中に子供一人でいると危ないぞ」 男は心配そうに幸の顔を覗き込んだ。 「えっと……」 理由を説明しようにも、日下に虐待されている事は誰にも言うなと言われているので、幸はどうしたらいいか分からず俯いた。 「君も居場所がないのか」 幸の態度を見て、男はぽつりと呟いた。 「私も同じだよ」 男の言葉に、幸は驚いたように顔を上げた。 「君は何時までここにいるつもりかな?」 聞かれても、幸は何か考えて家を出て来た訳ではなかったので、困って黙り込んでしまった。 「出来る事なら帰りたくないよな」 男の言葉に、幸は頷いた。 「私は
高木浩一
(
たかぎこういち
)
と言うんだ」 急に男――高木が名乗ったので、幸もおどおどしながら名を告げた。 「日下幸、です」 「幸ちゃんか」 高木が微笑みかけると、幸は照れたように視線を逸らした。 「ここ、暑いな」 言われて高木を見ると、顔が汗だくになっていた。 「あ、これ」 幸は慌てて借りていたタオルを返す。 高木は「ああ」とだけ言ってそれを受け取ると、顔の汗を拭いた。 そのまま、何かを喋るという訳でもなく、空が薄明るくなるまで二人で過ごした。 「私は明日もここにいるから」 高木はそう言って、幸が来た方と反対側の出口から帰って行った。 幸はこの後どうするか迷ったが、そろそろ日下が寝ている頃だろうと思い、ひとまず家に帰る事にした。 幸は音を立てないように気を付けて家に入ったのだが、ちょうどトイレに起きて来た日下と
鉢合
(
はちあ
)
わせしてしまった。 日下は幸に気付くと、凄い剣幕で怒鳴りつけた。 「こんな時間まで、どこに行ってたんだ!」 そして、幸を突き飛ばす。 「どうせなら、そのままどこかへ行ってしまえば良かったんだ!」 日下が、罵りながら幸に暴力を振るう。 恵はこの時間なら幸の部屋で寝ている筈だが、日下の声にも起きて来る気配はなかった。 幸は、日下の気がおさまるまで、体を丸めて必死に耐えるしかなかった。 『夜には高木さんに会えるから…… 』 今の幸にとって、それが唯一の救いだった。
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汐なぎ
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