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幸福論 第二章(五)心の在り処 | 汐なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
幸福論
第二章(五)心の在り処
作者:
汐なぎ
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第二章(五)心の在り処
幸
(
みゆき
)
は
高木
(
たかぎ
)
とあった日は酷い
折檻
(
せっかん
)
を受けたが、それでもまた会いたかったので、
日下
(
くさか
)
が出かけて行くとすぐ、家を出て公園に向かった。 幸が昨日のベンチに座っていると、しばらくして高木がやってきた。 「こんばんは。また会えたね」 高木は幸の隣に座ると、持っていた袋からペットボトルを取り出した。 「飲むかな?」 「ありがとうございます」 幸が礼を言って受け取ると、「これも」と菓子を渡された。 菓子を食べるなど、優一が死んで以来の事だったので、幸は優一を思い出して泣きそうになったが、何とか涙を噛み殺した。 しかし、涙を流してはいなかったが、肩が小刻みに震えていたので、何かを堪えているのは
一目瞭然
(
いちもくりょうぜん
)
だった。 「どうしたんだい?」 高木は幸の顔を覗き込んで、心配そうに声をかける。 「何でもないです」 幸はそれに、首を横に振って答えた。 しかし、高木にも幸が何かを隠している事が分かったので、続けて語りかける。 「話した方が楽になるなら聞くぞ」 高木の言葉に、幸は言い淀んだ。 幸も高木に全てを聞いて貰いたかったが、虐待については日下に口止めをされているので言えない。 だから一言、
優一
(
ゆういち
)
が死んでつらかった、とだけ答えた。 「まあ、言えない事もあるさ」 高木は、幸がつらそうにしている理由が、それだけではないと気付いたが、それ以上追求しようとはしなかった。 そして、何か気分でも変えようと、高木はもう一度菓子を渡した。 「お菓子でも食べようか」 幸は高木の言葉に頷くと、菓子を手に取って口に運び、肩を震わせながら噛み締めた。 その後は、ただ肩を並べて菓子を食べながら、夜が開けるまで一緒に過ごした。 幸は高木と別れてもしばらく公園にいたが、空が明るくなる前に家に帰った。 家に帰り、恐る恐るドアを開けると、日下はもう寝たようで、寝室の方からいびきが聞こえる。 幸は安堵し、キッチンを通り過ぎて自室に行こうとすると、恵がテーブルにうつ伏せになっていた。 寝ているのかと思っていると、恵が急に顔を上げて、すごい顔で幸を見た。 「何処に行ってたの?」 幸は答えに困って、口を開けかけて、閉じた。 「学校には行けないくせに、こんな時間に何処に行っていたの?」 「ごめんなさい」 優しかった恵の怒ったような態度に、幸は思わず後ずさった。 「謝って欲しいんじゃない!」 恵はそう言うと、急に涙を流し始めた。 酔った日下に乱暴に犯され、気が動転していて、幸がいれば自分が酷い目にあわなかったのにと、不条理な怒りをぶつけてしまったのだ。 「お母さん?」 幸は、恵を心配するが、どうしていいか分からず、ただおろおろとしていた。 「ごめん」 今度は恵が謝って、幸を抱きしめた。 「お母さん、大丈夫?」 「うん。大丈夫」 「でも、涙……」 恵には幸の優しさが痛かった。 幸はどんなに日下から暴力を受けてもそれに耐えて、八つ当たりをする恵にまで優しくしてくれる。 このまま一緒に寝ても良かったのだが、恵は罪悪感に
苛
(
さいな
)
まれて、いたたまれなくなった。 恵は行くあてがある訳でもないが、パートに行く準備をして家を出る事にした。 今日だけでも、何処かで時間を潰そうと考えたのだ。 「出かけてくる」 恵はそれだけ言うと、幸を残して家を出て行ってしまった。 「お母さん……」 幸は恵の背中を見送りながら、悲しそうに呟いた。
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汐なぎ
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