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第二章(七)守りたいもの

 (みゆき)は毎日、高木(たかぎ)に会いに公園に行った。  別に何を話すという訳でもなかったが、一緒にいると心が落ち着いたのだ。  幸の今の生活の中で、高木は唯一の救いだった。 「今日はクッキーを買ってきたんだ」  高木は袋からクッキーの箱を取り出すと、膝の上に乗せた。 「それから、お茶」 「ありがとうございます」  ペットボトルを受け取ると、幸は小さくお辞儀した。  幸は、泣き出した時に慰めて貰ってから、高木の事が大好きになっていた。  けれど、自分からは何を話したらいいか分からなかったので、せいぜい聞かれた事に一言二言答えるくらいだった。 「何か変わった事はあったかい?」 「ありませんでした」 「何もない方がいいのかもな」  とりわけ意味のある事を話す訳ではなかったが、それが二人にとっては心地よい距離感だった。  しばらく話してから、幸は珍しくトイレに立った。  そして、幸がトイレから帰ってくると、ベンチの方から大きな声がする。  幸が急いで声のする方に駆け寄ると、高木が三人組に囲まれて殴られていた。 「やめろ! やめてくれ!」  高木に悲鳴に、幸は慌てて止めに入った。 「やめて!」  幸は一人の男にしがみついた。 「離して!」  けれど、幸は男にはね飛ばされて尻もちをつく。 「幸ちゃん!?」  高木が驚いて声をあげた。  幸は高木を助けようと、懸命に男にすがりつく。 「やめて!」  男の一人がすがりつく幸の腕を取った。  街灯の下に、綺麗な幸の顔が映し出される。 「このガキ可愛い顔してんじゃん」  男は暴行を加える輪から離れて幸の顔をまじまじと見た。 「なあ、ジジイいたぶるのやめて、このガキ可愛がろうぜ」  声をかけられた一人が、高木から離れて幸の方を見る。 「幸ちゃん……逃げるんだ」  高木は、男の足を掴もうとしたが、腕を踏みつけられて悲鳴をあげた。 「やめて!」  幸は掴まれていた腕を振りほどくと、高木を蹴ろうとしていた男の足にしがみついた。  男が、幸を振り払って蹴り飛ばそうとするのを別の男が止める。 「おい、そいつで遊ぼうぜ」  言われて、男は蹴るのをやめて、幸を無理やり立たせた。  確かに、幸は可愛い顔をしており、高木を暴行するより楽しめそうだった。 「幸ちゃんっていうの? 大人しく言う事聞いたら、そこのおじいちゃんは助けてあげるよ?」  もう一人はまだ高木を蹴りつけていたが、他の二人は幸に夢中になっていた。 「言う事を聞くから、助けてください」  幸が懇願すると、男たちは残りの一人を止めた。 「そんなジジイおいといて、こっちで遊ぼうぜ」 「このジジイより楽しめそうなのか?」  男は高木を蹴るのをやめて振り向くと、幸を見てニヤリとした。 「美少女じゃん」  そして、幸に顔を近付けると、その頬を舐めまわした。

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