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第二章(十)それでも会いたくて
あの後、高木 は幸 に合わせては貰えなかった。
高木は、自分が守らなくてはいけない立場だと言うのに、幸に守られた事が情けなく、申し訳ないと思ったので、もう一度会い、謝罪をして礼を言いたかった。
しかし、もう一度公園に行っても幸が来るとは思えず、むしろ、犯人の男たちと会う危険性の方が高い。
だから、高木は公園に行こうとは思わなかったが、幸が何処 に住んでいるか知らなかったので、もう会う機会はないのだと思った。
一方、幸はと言うと、昨日襲われたばかりだと言うのに、高木に会いたくて、いつもの時間に公園に向かった。
まっすぐに、いつものベンチに向かうが、そこに高木の姿はなかった。
なんとなく幸にも、高木はもう来ないだろうと分かっていたが、それでもしばらくベンチで待つ事にした。
男たちに会うのも怖かったが、たった数日前に会っただけなのに、高木は幸の心の支えになっていたので、どうしても公園に行かずにはいられなかったのだ。
「幸ちゃん」
幸がぼんやりと座っていると、名前を呼ぶ声がした。
相手が高木でない事は、声を聞いてすぐ分かったので、幸はその場から走って逃げようとしたが、簡単に捕まってしまった。
「また楽しい事をしに来たの?」
「今日もたっぷり可愛がってあげるよ」
「昨日の場所に行こうか」
そう言って、三人組は、幸を連れてトイレに向かった。
公園では、昨夜事件があったので、二人の警官が近辺をパトロールしていた。
すると、三人組が子供を連れて歩いているのが見えた。
「何をしてるんだ?」
若い警官が一人の肩を掴むと、男の一人が振り向いた。
「何? どうしたの?」
「何って……」
言いかけた警官を止めて、ベテランの警官は三人に笑いかけた。
「ここの辺りで物騒な事件が起きたとかでパトロールしていたんですよ。呼び止めてすみませんでした」
そして、男達をそのまま見過ごした。
「どう見たっておかしいでしょう!」
食ってかかる若い警官をベテランの警官がなだめる。
「あれは権力者の御曹司なんだ。手を出すと進退問題になりかねないんだよ」
言われても、若い警官は納得がいかない。
「あの子が襲われるのを黙って見過ごせって言うんですか!?」
「俺には家族もいるしローンもある。面倒事には関わりたくないんだ」
「しかし!」
ベテランの警官だとて何も守るものがないなら、子供を助けただろうが、もう情熱だけで動く事が出来なくなっていたのだ。
「あんな事があった次の日に来るなんて、自業自得だよ」
若い警官は幸を助けたかったが、先輩の言う事に逆らえず、幸の背中を見送った。
「ごめん」
そして、若い警官は、小さな声で謝ると、拳を固く握りしめた。
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