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第二章(十二)再び病院にて

 (みゆき)が解放された時には、辺りはすっかり明るくなっていた。 「おうちに真っ直ぐ帰るんだよ」 「悪い人に気をつけてね」  人気のないところに車を止めると、薄暗い路地裏に裸の幸を放り出し、着ていた洋服を投げ捨てた。 「本当に帰して良かったのか?」  運転席の男はまだ未練タラタラだったが、幸を解放しようと提案した男はそれにため息をつく。 「あんだけ(しつけ)られてるんだ。誰か後ろにいたら厄介だろ」 「そうだけどよ、あんな玩具(おもちゃ)滅多にないぜ。なあ」 「あ、ああ」  後部座席の三人は、同意を求められたが、どちらに味方するべきか分からず、曖昧に頷いた。  幸が目を覚ますと、日はだいぶ昇っていた。  暑さでかいた汗や、男たちの体液で体がじっとりと濡れている。  体中が(きし)みをあげていたが、幸はなんとか服を着ると、路地裏を出た。  しかし、見た事もない風景で、幸はどこに行けばいいのか途方に暮れた。  それでも、早く帰らないと、また男たちが来るような気がして、せめて今いる場所からは離れようと立ち上がった。  幸が必死に歩いていると、後ろから声をかけられた。 「学校はどうしたの?」  驚いて振り向くと、制服姿の警官が立っていた。  幸はまだ小学生くらいの歳なのだから、平日の昼日中に歩いていれば、声をかけられるのも無理はない。 「あ……」  答えかけて、昨日警察に行って恵に怒られた事を思い出し、幸は逃げるように走り出した。 「ちょっと待ちなさい!」  しかし、ボロボロの体では上手く走れず、足がもつれて道路に転がってしまった。 「大丈夫かい?」  警官は幸に手を差し伸べようとして、その乱れた衣服に気付き、何か事件に巻き込まれたのだと悟った。 「怖くないからこっちにおいで」  幸はその声を聞きながら、再び意識を失った。  幸はそのまま昨日と同じ病院に連れて来られた。  病院の職員が、幸は昨日もこの病院に来ていたと言っていたので、大急ぎで警察署に問い合わせをする事になった。  すると、身元はすぐに判明し、昨日もレイプされていた事が分かった。  そして、見回りに出ていた警官から、この件は権力者の御曹司(おんぞうし)たちが犯人らしいとの報告があったので、事件はうやむやにされて、幸の状態が回復し次第、事情聴取等は行わず、そのまま家に帰らせる事になった。 「輪姦(まわ)されたらしいぜ」 「レイプされたのに、また同じ場所に行くなんて」 「やられたかったんじゃないか?」  幸の枕元で口々に勝手な事を囁きあっていた。 「でも、美少年だよな」 「犯してみたくなるのも分かるな」 「じゃあ、ここでやってみるか?」  笑い声が漏れる。 「個室だし、案外分からないんじゃないか?」 「やめろよ。さすがにそれはまずいだろ」 「なんだよ本気にしたのか?」  そして、笑いながら病室を去って行った。  夕方になって、(めぐみ)が病院に迎えに来た。  日下は家にいたが電話に出ず、連絡がつかないからと、恵のパート先に電話がかかって来たのだ。  警察からの電話に、店長に何かあったのか聞かれたが、恵は本当の事を話すべきか分からず、なんと言えばいいか悩んだ。  それでも、なんとか誤魔化して店長から許可をとり、パート先を早退させて貰ったのだった。 「幸!」  恵は幸に会うと、いきなり頬を叩いた。 「ちょっと、お母さん!」  傍にいた警官が止めに入ると、恵はその場に泣き崩れた。 「何にも出来ないなら、せめて邪魔はしないでよ!」 「落ち着いて。息子さんは被害者なんだから」  しかし、恵は警官の制止を振り払って立ち上がると、幸の手を引いてベッドから降りさせた。 「帰るよ」  そして、幸を促すと、そのまま病院を後にした。

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