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第二章(十三)見積もり
その日、売春を持ちかけて来た客の古川悟 が店に来て、再び恵 に、幸 の顔が見てみたいと言って来た。
「ただ、見るだけだから連れて来てよ。顔を見れば大体の相場が分かるし、あやちゃんだって気になってるんでしょ? 返事はその後でいいからさ」
普通なら怪しいと思うのだろうが、この日の恵は判断能力が鈍っていた。
幸は二日連続で強姦されていたが、その分お金を貰ったら幾らになるか気になったのだ。
だから、軽率に古川の誘いに乗ってしまった。
「じゃあ、あやちゃんの仕事もあるし、日中に会うのがいいかな。迎えに行くから、場所を指定してよ」
恵はパートが休みの日に、古川と会う約束をして、幸を連れて待ち合わせの喫茶店に向かった。
何も知らない幸は、久しぶりの恵との外出が嬉しくて堪らなかった。
だから、苦手な人混みすら楽しく思えたので、何か会話をすると言う訳でもなかったが、幸は恵の隣でずっと笑っていた。
そうして、二人が店に着くと、先に来ていた古川が手を振った。
「あやちゃん。こっちこっち」
恵は古川のいる席まで行くと、向かい合わせの席に着いた。
幸は、知らない人がいる事に少し戸惑ったが、恵に倣 って椅子に座る。
「お待たせ。連れて来ました」
恵が挨拶をすると、古川が笑顔で幸に話しかけて来た。
「やあ、可愛い子だね。はじめまして。名前は何て言うの?」
尋ねられて、幸は小さな声で挨拶をした。
「はじめまして。幸……です」
「へえ。幸君か」
古川は、幸の顔を値踏みするように見ると、立ち上がって二人を促した。
「早速だけど、行こうか」
「え? 何処に?」
「何処にって私の家だよ。値段、知りたいんでしょ?」
恵は、ただ幸の顔を見せる為に連れて来ただけで、古川の家に行くとは聞いていなかった。
だから、断ろうとも考えたが、幸の値段を知りたくもあったし、古川が優しく大人しい印象だった事もあって、深く考えずに頷いた。
「じゃあ行こうか」
古川は幸の頬に指を滑らせると、顎をとって優しく自分の方に顔を向かせた。
「本当に可愛いね」
二人が連れて来られたのは、高級なマンションの一室だった。
「適当に座ってて」
古川に言われてついて来たはいいが、よく考えたら大人の男性の家に女と子供など、何かあったら抵抗のしようもない。
恵がやっとその事に思い至ってソワソワしていると、古川が温かいコーヒーを作ってテーブルに置いた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
恵は不安そうにしながらも、コーヒーを受け取って口をつけた。
「二人とも、怖がらなくても大丈夫だよ」
古川は優しい笑みを向けながら、幸の近くに腰を下ろす。
「ちょっと見せてね」
そして、古川は、幸の服をめくると、顔をしかめた。
「あっ」
恵は、幸の痣の事を思い出して声を上げた。
「これじゃあ、売り物にならないよ」
古川が言うのを聞いて、恵は値段がつかなかった事に安堵した。
「あ、じゃあ、もう帰りますね」
そして、恵が幸を連れて玄関に向かおうとすると、古川に引き止められた。
「待って」
「え?」
戸惑う恵に、古川が告げる。
「帰ってもいいけど、幸君は置いて行ってよ」
「でも、さっきお金にならないって……」
「売り物にはならないけど、僕が買ってあげるよ。相場より高く買ってあげるから」
しかし、恵は幸の値段を知りたくてついて来ただけで、本当に売春させようと思った訳ではない。
だから、先程も値段がつかなかった事に安堵したのだ。
「嫌です。幸に売春なんてさせられません」
「息子売れないって、じゃあ何でここに来たの?」
「だって、見るだけって……」
「最初はそのつもりだったよ? でも、家に来るって言ったら、そういう意味だって分かるよね?」
「それは……」
ハッキリしない恵の態度に、古川が苛ついて来る。
「じゃあ、代わりにあやちゃんが体を売るの?」
古川は恵の腕をとって引き寄せると、強引に口付けた。
抵抗しようとする恵を壁に押さえつけて、スカートの下に手を入れる。
「やめて!」
恵は悲鳴を上げてもがくが、古川は華奢な見た目と裏腹に、強い力で押さえ込んで来る。
「叫んでもいいよ。防音しっかりしてるから」
「助けて!」
古川は恵の下着を下ろした。
「いやあ!」
幸は最初二人のやり取りを見ていたが、恵が嫌がっているのに気付くと、慌てて古川にしがみついた。
「お母さんを離して!」
幸の制止で古川が手を離すと、恵は放心状態で、そのまま床に滑り落ちた。
しかし、古川は恵には目もくれず、幸の前にしゃがみ込む。
「何? お母さんを助けたいの?」
「はい。お母さんを離して下さい」
それを聞いて、古川は幸に問いかける。
「じゃあ、幸君が私の言う事を聞くなら、やめるけど。どうする?」
幸は恵を助けたい一心で、古川の言葉に頷いた。
「言う事、聞きます」
すると、古川は幸の肩に手を乗せ、優しく微笑んだ。
「じゃあ、私についておいで」
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