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第二章(十六)産まれる場所

 (みゆき)が男たちから解放されたのは、夕方になってからだった。  ここに連れて来られた時は昼前だったので、六時間以上は犯されていた計算になる。  幸は意識が飛びそうになると、男たちに恵の事で脅されて気絶するなと言われ、最早(もはや)、気力だけで意識を繋いでいたが、最後には耐えきれずに気を失った。 「あやちゃん。幸君の頑張りはどうだった? いい息子持って良かったね」  古川(ふるかわ)が告げるが、(めぐみ)はもう涙を流して顔がぐちゃぐちゃになっていた。 「約束だから、もう解放して」  懇願する恵を古川は鼻で笑った。 「約束守ったのは息子の方だけど、まあ良いよ。私も鬼じゃないから、幸君との約束は守ろう」  恵は安堵して息を吐いた。  そんな恵に、古川が問いかける。 「あやちゃんは、このまま出勤?」 「それは……」  恵は、精神的に参っている上に、服も化粧もボロボロで、とても店に行けるような状態ではなかったので、店を休もうと思っていた。 「ああ」  古川は、恵の曖昧な態度を見て、欠勤するつもりだと気付いたが、それを許す気はなかった。 「家に支度しに戻ったらいいよ。送って行こう」 「でも、もう時間が……」  恵は言い訳を考えるが、古川は更に続ける。 「店にも送って行ってあげるよ。それに、遅刻しそうなら電話を入れればいい」 「でも、こんな……」  恵が言いかけると、古川の顔が険しくなった。 「こんな事の後で? あやちゃん何もしてないじゃない」  古川に言われて、恵は泣き崩れた。  その後、古川は、恵をそのまま放置して、男たちに向き直ると、忘れていたと言って、金を回収し始めた。 「この子、売りに出さないのか? もしそうなら、上客になってもいいが」 「一回で終わるの勿体ないでしょ。この子ならいくらでも稼げるよ」  男たちは、口々に言いながら、古川に金を渡して行く。 「頑張った息子へのご褒美ね。と言っても、受け取るのはこのクズの母親か」  男の一人が吐き捨てるように言って、蹴りつけようとするのを古川が制した。 「約束、守ってあげないとね」  男は古川の言葉に納得し、恵に手をあげるのをやめると、挨拶をして部屋を出て行った。 「じゃあ、俺も帰るか」  それに続いて、他の男たちも帰って行く。  そして、最後に残った男は、倒れている幸の頬に口付けた。 「頑張ったな。楽しかったぜ」  古川は男たちが全員部屋を出るのを見届けると、恵の拘束を解いて、今回収したばかりの金を渡した。  恵が受け取ると、それは一見しただけでも聞いていた以上の額があると分かった。 「これ……」 「息子に感謝するんだね」  古川の言葉を聞いて、恵は再び泣き崩れた。  それを古川は侮蔑(ぶべつ)の眼差しで見る。 「泣きたいのは幸君の方じゃないの? 何にもしてないのに、被害者(づら)するのやめて貰えないかな」  その言葉に、恵は更に激しく泣き始めた。  二人は古川に送られて、一旦、自宅に帰る事になった。  アパートに着くと、古川は幸を抱えて部屋までついて行く。  恵は中に入る時、もしかして、まだ日下がいるのではないかと心配したが、都合良く日下は外出中だった。  古川はぐったりした幸をベッドに寝かせると、優しく頭を撫でた。 「産まれる場所を間違えたみたいだね」  そして、恵が準備を終えるまで幸に付き添った。 「終わりました」  恵が声をかけると、古川は幸に優しく口付けてから立ち上がった。 「この子、この後、父親に殴られたりするの?」 「多分……」  言い淀む恵に、古川は呆れた顔をする。 「二人で家、出ればいいじゃない」 「それは……」 「何? 旦那に未練でもあるの?」 「そんなものありません!」 「じゃあ逃げなよ。これじゃあ幸君が可哀想だ」 「でも、行くところなんて……」 「お金稼いでるんだから、部屋でも借りたらいいんじゃないの?」 「でも……」  歯切れの悪い恵に古川は苛立ちを覚えたが、これ以上何を言っても無駄と、先に立って玄関に向かった。 「じゃあ、店に行こうか」

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