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第三章(四)裏切り

 日下(くさか)は組織からの帰り、(みゆき)を売った金で浴びるほど酒を飲んだ。  そして、酷く酔った状態で自宅に帰ると、もつれる足で玄関のドアを開けた。 「帰ったぞ」  日下は中に向けて大きな声を出す。  幸も声の調子から、日下が酷く酔っているのがすぐに分かった。  そして、こう言う時の日下が、いつも以上に暴力を振るう事も知っている。  幸は怖くてベッドに潜り込むが、そんな事で許すような日下ではなかった。 「幸! 出て来い!」  日下は幸の被っている布団を引き剥がした。  そして、日下はいつものように幸を殴り飛ばそうとしたが、酔った頭の隅にも多田(ただ)の言葉が残っていたらしく、上げかけた手をすぐに下ろす。  日下は、多田に従っていれば、これからも幸を売って金を稼ぐ事が出来るのだから、不興を買うような事はしない方が得策だと考えたのだ。  幸は殴られると思って身構えていたが、一向にその気配がなく、顔を(かば)っていた腕をゆっくりと下ろす。 「金の成る木だからな。殴りはしないさ」  そう言って、日下は幸の両頬に手を当てると、顔を近付けてまじまじと見る。  確かに、幸は母親似の綺麗な顔をしていた。 「こんなガキの体でも金になるんだな」  日下は、優一(ゆういち)が幸を抱いていた事を思い出した。  愛撫(あいぶ)する優一と、その下で(もだ)える幸。 「もっと早く気付いていれば、多田のところで働かなくても良かったのにな」  日下は幸の服をめくって直接肌を触る。 「金になるんなら、客でも取らせるか」  そして、幸のシャツを脱がせた。 「多田まで(とりこ)にするくらいなら、相当具合のいい体なんだろ?」  日下はしばらく女を抱いていなかった。  ならば、優一がしていたように、代わりに(めぐみ)に似た顔の幸を抱いてみるのも悪くないと考えたのだ。  それに、犯すだけなら外傷が出来る訳でもないので、多田にバレる事もないに違いない。 「お前が悪いんだ」  日下は、身を固くして怯える幸に覆い被さると、無理やりその中に挿入した。 「つっ」  幸は痛みで逃げようとするが、日下は強い力で押さえ付けた。  そして、日下はねっとりとした舌を幸の口内に入れる。  幸の頭にツンとしたアルコールの臭いが充満した。  日下は口を離すと、もう一度、幸の顔をまじまじと見つめる。  酒に酔った頭に、恵の顔がチラついた。 「恵……」  かつて優一がしたように、日下は恵を幸に投影させていた。  日下は幸の肌をまさぐりながら、腰を動かす。  幸は、他の相手ともしている行為だというのに、何故か日下とする事が堪らなく嫌だった。  しかし、強い力で押さえつけられて、幸は身動き一つ取れない。  ただ、せめてもの抵抗と顔を(そむ)けるが、今度は日下が首筋に舌を()わせる。 「ああ、恵」  日下は何度も恵の名を呼びながら、幸を犯した。  肌をまさぐり、体中を()めまわし、その中に出す。  そして、その間中、幸の大好きな母親の名を呼ぶのだ。  幸は堪らず、一筋の涙を流した。 「お母さん……」  そして、小さく呟くと、そのまま意識を手放した。
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