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第三章(五)気持ちのはけ口

 (みゆき)は目が覚めると、日下(くさか)が起きていない事を確かめからベッドを抜け出し、ベタベタの体を洗おうと風呂場に行った。  そして、シャワーを浴びて廊下に出たところで玄関のチャイムが鳴る。  その音を聞いて、幸は多田(ただ)が来たのだと思い、急いで玄関に向かった。  幸は、日下と二人きりでいるのは怖かったし、少なくとも多田は手を上げる事はなかったので、助けが来たように思えたのだ。  幸は玄関に着いてドアを開けようとしたが、慌てて奥から出て来た日下が、先にドアを開けて多田に挨拶をする。 「多田さん、おはようございます」  日下が挨拶をすると、多田は酒臭い匂いに顔をしかめた。 「息子を売った金で酒を飲んだのか? 大した身分だな」 「いや、これは……」  日下はニヤニヤとして誤魔化そうとしている。  しかし、多田にとって日下の事などどうでも良かった。  多田はすぐに視線を玄関に立つ幸に向ける。  そして、幸の(ほほ)を手の甲で撫でながら、日下に声をかけた。 「暴力は振るってないだろうな」 「勿論(もちろん)です」  昨日の今日なので、新たな(あざ)が出来ていても分からないだろうが、日下が命令を破る程の度胸があるとは思えなかったので、多田はその言葉を信じる事にした。  それに、多田が日を開けずに来たのは幸を抱きたかったからで、日下の事はどうでも良かったのだ。 「おいで」  多田が幸を呼び、手を引いて寝室に連れて行こうとすると、その背に日下が声をかける。 「また、お金をいただかないと」 「クズが」  多田は吐き捨てるように言うと、財布を取り出す。  しかし、昨日払ったままで財布の中身は空だった。 「沢井(さわい)。金を持ってるか?」  聞かれて、沢井は慌てて財布を取り出す。 「三万ちょっとあります」 「三万貸してくれ」  多田は沢井から金を受け取ると、日下の足元に投げ捨てた。  それから、多田は一転して幸に優しい顔を向ける。 「幸、行こうか」  多田が(うなが)すと、幸はそれに従って大人しくついて来る。 「いい子だ」  そう言うと、多田は幸の頬を撫で、そのまま寝室に消えた。  寝室に入ると、多田はベッドの上で幸の服を脱がせた。 「あれから殴られたりしてないか?」  多田は幸の肌に手を(すべ)らせ、優しく口付ける。 「可愛いな。出来る事なら傍に置いておきたいくらいだ」  その言葉は今の多田にとって嘘ではないが、それが本心と言う訳ではない。  多田は、ただひと時の快楽を求めて幸を抱いているに過ぎない。  幸を手元に置く事が出来ない訳ではないが、いつ飽きるとも知れない子供に、そこまでする価値があるとは思っていなかった。  多田にとって、今は気に入っているとは言え、所詮(しょせん)ただの気まぐれに過ぎないのだ。  多田は幸の後ろに指を入れようとして、酷く傷ついているのに気付いた。  昨日は少し乱暴に抱いたとはいえ、幸にそれ程酷い怪我をさせたとは思えない。  それなら、あの後、誰かが幸を犯した事になる。 「誰にやられた?」  幸は何も答えない。  しかし、幸に聞くまでもなく、多田は相手が誰なのか分かっていた。 「日下にやられたのか?」  幸は体を固くして黙っている。 「怒らないから教えてくれないか?」  多田は幸の耳元で(ささや)く。 「私としたような事を父親としたんだろう?」  幸は小さく頷いた。 「どこまでもクズだな」  多田は吐き捨てるように言った。  すぐにでも日下に制裁を加えたかったが、多田は今ここで行為を終わらせるつもりはなかった。  多田は、せっかく楽しみにしていた時間を日下ごときに潰されるのはまっぴらだった。  しかし、こんな事をするなど、日下は完全に多田を馬鹿にしているとしか思えない。  多田は考え始めると、どんどん怒りが増して来て、気持ちが抑えられなくなった。  そして、今抱いている幸がその気持ちのはけ口となる。 「少し我慢しろ」  多田は幸の足を持ち上げると、無理やりに突き入れて激しく腰を振った。 「いっ……」  幸は激しい痛みに貫かれたが、日下に暴力を振るわれていた時のように声を殺し、両手でシーツを握りしめた。 「恨むなら父親を恨め」  そうして多田は、自分の気が済むまで、何度も幸を犯した。  多田は部屋を出ると、日下を殴り飛ばした。 「ひっ!」  日下は喉の奥で悲鳴を上げて、怯えた目で多田を見る。 「貴様、幸を犯したな」 「そんな事はしてないです」  騙せるとでも思っているのか、嘘をつく日下の態度に、多田の怒りが増して行く。 「私を馬鹿にしているのか?」 「そんな事は……」  多田は倒れている日下の前髪を掴んで、顔を上げさせた。 「幸は私の物なんだよ」  そう言うと、多田は日下をしばらく、殴り、そして蹴った。 「すみません。すみません」  その間中、日下は無様に泣き叫びながら、許して貰おうと多田に懇願し続けた。  しかし、こんな事で多田の怒りが収まる筈もない。  それでも、これ以上暴行を加えて今後の仕事に支障をきたすといけないと、多田はなんとか怒りを抑えた。 「今度、舐めた真似をしたら、こんなものじゃ済まないからな」  そして、多田は日下から手を離すと、脇腹に一発蹴りを入れ、暴行をやめた。  しかし、このままにしておいたら、日下がまた何かしでかす可能性もある。  多田は少し考えてから沢井を呼んだ。 「沢井」 「はい」  多田に呼ばれて沢井が返事をする。 「こいつが逃げたり、幸に手を上げたりしないように、しばらくここに泊まって見張ってくれ」 「分かりました」 「今日から頼む。誰かに車を回すよう手配してくれ。その時に金も持って来させよう」  それから、多田は幸をちらりと見る。 「ろくなもんを食べてないんだろう。ガリガリに痩せているから、なにか食べさせてやれ」

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