48 / 103

第三章(六)日下の監視と幸の世話

 沢井(さわい)多田(ただ)を見送り戻って来ると、(みゆき)は裸のままでベッドに座って、ぼんやりと虚空を見つめていた。  しかし、幸は沢井が帰って来たのに気付くと、ゆっくりと顔を向ける。  沢井は幸が泣いていると思っていたのだが、涙のあとがありこそすれ、泣いている訳ではなさそうだった。  それが、沢井には意外だったが、幸にとっては日下(くさか)にされる事を思えば、どうと言う事はない。  だから、痛かったし、多田を怖いと思ったが、泣く程の事ではなかった。  とは言え、足元のシーツには血がベッタリとついており、多田の行いはどう考えてもやり過ぎと言わざるを得ない。 「大丈夫か?」  沢井は声をかけたが、シーツの血を見る限り、とても大丈夫とは思えない。  沢井は、床にうずくまっている日下をまたぐと、真っ直ぐ幸の元へ向かった。  そして、沢井が手を差し伸べると、幸は驚いて後ずさる。  何度も見てはいるが、幸にとって沢井はよく知らない人なので、少し怖かったのだ。 「へえ」  幸の怯えたような態度に、沢井は加虐心(かぎゃくしん)を駆り立てられた  しかし、それを態度には出さず、優しそうな笑みを浮かべて、もう一度手を差し出すと、幸はおずおずと沢井の手を取った。  沢井は幸の手を強く握りしめると、自分の方に引き寄せ、後ろの具合を確認する。  すると、案の定、幸の入口は酷く傷ついていた。 「傷薬はあるか?」  沢井は床にうずくまったままの日下に声をかけるが、震えるばかりで答えようとしない。 「使えないな」  しかし、聞いてはみたが、沢井もこの家に薬があるなどと思ってはいなかった。  沢井は幸に視線を戻すと体を抱き上げた。 「風呂場、借りるぞ」  沢井は服を脱いで風呂場に入ると、シャワーを出して幸の後ろを流す。 「痛いか?」  幸は返事の代わりに沢井の腕をギュッと掴んだ。 「可愛いな」  沢井は、日下に聞こえないように幸の耳に(ささや)くと、後ろを流す振りをして、指を折り曲げて中を刺激した。  すると、中も傷ついていたのか、幸は逃げるように腰を動かす。  沢井は逃げ腰の幸を両腕で抱え込むと、更に指でいじめ抜く。  逃げ場をなくした幸は、抱きとめる沢井の腕に(すが)り付いた。  幸の態度は沢井の性欲を刺激した。  ここまで来れば、幸を犯しているのとなんら変わりがないように思えた。  沢井はこのまま幸を襲おうと考えたが、多田にバレた時の事を考えると、あまりにもリスクが大き過ぎると思い直す。  それに、沢井にはいくらでも幸を犯す機会はあるのだ。  沢井は、そのタイミングを待つ事にして、幸から離れると自分の体を洗いはじめた。  風呂から出ると、外はもう日が暮れかかっていた。  日下は、暴力を振るわれる事に慣れていないのか、いつまでも怯えたように、頭を抱えてうずくまっている。  沢井は、日下の態度に嫌悪感を覚えたが、すぐに興味をなくし、傍にいる幸に向き直った。  そこで、沢井は夕食がまだだと言う事を思い出す。 「今まで食事はどうしていたんだ?」  幸はガリガリに痩せてはいたが、生きているという事は、少しは食事を摂っていたのだろう。 「家に残ってるのや、お父さんが買って来たのを食べてました」  幸が小さな声で答える。  沢井はその内容よりも、幸が初めて長い言葉を喋った事に驚いた。  これなら、優しくすれば、幸を懐かせる事が出来るかも知れないと思ったのだ。  それに、多田にバレずに幸を抱くには、その方が都合が良い。 「毎日、食べていたのかい?」  沢井は急に優しい口調になる。 「あんまり……」  幸は俯いて答えた。 「これからは、毎日三食きちんと食べような」  沢井はそう言って、怯える幸の頭を撫でる。 「ありがとうございます」  素直に礼を言う幸は、堪らなく可愛かった。 「膝においで」  沢井が優しい声で呼ぶと、幸は戸惑いながらも膝に座る。  すると、幸の尻が股間にあたって沢井を刺激した。  沢井は幸を襲いたい欲求を抑えながら、端末を幸に見えるように向けて料理を検索する。 「何が食べたい?」  沢井はこのくらいは良いだろうと、幸を抱きしめて耳元で囁いた。  しかし、幸は沢井に聞かれても、何がいいか分からず困惑する。 「欲しいものがあったら指さしてごらん」  幸は何も答えなかったが、沢井が適当に画面を切り替えて行くと、和食のページに反応した。 「これが食べたいです」  幸は煮物や焼き魚の入った弁当を指さした。 「これがいいのかい?」  聞かれて、幸は小さく頷く。  沢井はその選択が少し意外だったようだが、幸にとって、それは母親の味だったのだ。 「じゃあ、幸はこれだな」  そう言って、沢井は幸の注文と自分の注文を確定した。

ともだちにシェアしよう!