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第三章(九)待ち望んだ瞬間

 それから数日、多田(ただ)は毎日のように(みゆき)に会いに訪れた。  その度に沢井(さわい)は緊張したが、幸に悪戯(いたずら)をしている事が、多田にバレている様子はなかった。  そして、ついに沢井が待っていた日がやって来た。  仕事の為に日下(くさか)が部屋を空けたのだ。  その間は多田が訪れる事もないだろう。  それでも、沢井は念の為と、もう一度玄関の鍵を確認した。  幸は食事をくれて優しくしてくれる沢井に、少しずつ心を許すようになっていた。  そんな幸の態度は、沢井の計画通りであり、とても都合が良かった。  沢井は、懐いているのをいい事に、幸を誘ってベッドに寝かせると、その上に覆い被さる。 「やましい事じゃない。これは幸が好きだからするんだよ」  優しく言いながらも、沢井は待ち望んだ瞬間に、欲望を抑える事が出来ず、幸のズボンを乱暴に脱がせた。  それから、幸の耳にそっと(ささや)く。 「でも、この事は誰にも言ったらいけないよ」  (うなず)く幸を見て、沢井は股間に顔を埋めると、舌を()わせながら後ろに指を入れる。  幸は戸惑いはしたが、優しくしてくれる沢井が、自分に悪い事をするとは少しも思っていなかった。  それに、誰かに好きだと言って貰ったのは、優一が死んで以来の事だったので、幸はただただ嬉しかった。  沢井は、そんな幸の気持ちを自分の欲望を満たす為に利用する。 「気持ちいいかい?」  沢井は顔を上げると、幸の耳元に荒い息を吐く。 「はい。気持ちい……です」  それを聞いて、沢井は幸に口付ける。 「可愛いね」  沢井は、十分に後ろを(ほぐ)すと、幸の足を持ち上げた。  そして、体を固くする幸に、沢井は優しく語りかける。 「優しくするから大丈夫だよ」  沢井は幸の中にゆっくりと入って行く。  幸は何度やっても慣れない行為に目をつむった。 「幸、愛してるよ」  沢井は偽りの言葉を吐く。  しかし、それは幸が欲しかった言葉だったので、沢井の事を疑いもせずに体を許した。 「俺の名前を呼んでごらん」  沢井は腰を動かしながら幸に告げる。 「沢井さん」  幸は戸惑いながらも、小さな声で名前を呼んだ。 「呼び続けて」 「沢井さん」  沢井は興奮して激しく腰を動かした。  その突き上げに、名前を呼んでいた幸の声が、小さいながらも嬌声(きょうせい)に変わる。 「さっ、ああっ」  沢井はその声に刺激されて、更に腰を激しく打ち付けると、幸の中に精を吐き出した。 「愛してるよ」  そして、沢井が優しく口付けると、幸はその背中に腕を巻き付けた。 『ボスが夢中になる訳だ』  沢井は想像以上の快感に、行為が終わっても体の芯がまだ痺れていた。  幸の肌には弾力があり、その中は堪らなく気持ちが良かった。  テクニックこそないが、下手な女を抱くよりよっぽどそそられる。  幸はこの歳に似つかわしくなく堪らない色気があったし、口から漏れる嬌声は子供とは思えない程に淫らだった。  しかし、事が終わると、幸は純真無垢な何も知らない子供のようにしか見えない。  そのギャップが、更に沢井を虜にした。 「大好きだよ」  沢井が言葉をかけると、幸は無理に起き上がってにっこりと微笑んだ。 「僕も……」  そして、幸は先程まで抱かれていた胸にしがみつく。 「幸は俺の事をどう思ってる?」 「大好きです」  幸は沢井の顔を覗き込むように、胸に埋めていた顔を上げる。  その様子に欲情して、沢井は幸をきつく抱きしめた。 「もう一回いくよ」  沢井はそう言って、幸に口付けた。  行為が終わると、沢井はシーツを替えて洗濯機に投げ入れる。 「おいで。もう一度お風呂に入ろうか」 「はい」  幸は、沢井に誘われて風呂場に行く。  なんの疑いもなく従う幸の様子に、沢井は興奮を覚えた。 「可愛いな」  そして、沢井は風呂場に入ると、幸の体を洗いながら、もう一度犯した。  風呂から上がると、沢井はいつものように食事を頼んだ。  幸は煮物で沢井はカレーだ。 「怖かったかい?」  沢井に聞かれて幸は考える。  幸にとって、沢井との行為は怖くもあったが、求められる事は嬉しくもあった。 「沢井さんの事、好きだから」  幸はそう言って(うつむ)く。 「いい子だ。俺も大好きだよ」  沢井は幸を抱きしめて口付ける。  確かに、沢井も幸を可愛いと思う時はあるが、所詮(しょせん)は性欲処理の道具に過ぎないし、その事に罪悪感など微塵(みじん)もなかった。  むしろ、幸を手懐けて抱く事で、多田に対する優越感を覚えたくらいだ。  しかし、それを味わって行く為には、決して多田に知られてはならない。 「だから、これは二人だけの秘密だよ」  沢井に言われて、幸は素直に頷いた。

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