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幸福論 第三章(十五)電子ロック | 汐なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
幸福論
第三章(十五)電子ロック
作者:
汐なぎ
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第三章(十五)電子ロック
幸
(
みゆき
)
は、あれから何件もの仕事を全て完璧にこなした。 そして、
多田
(
ただ
)
に抱かれるだけの存在と見下していた構成員も、幸の実力を認めるようになり、扱いも変わって来た。 しかし、仕事以外では幸の人見知りは相変わらずで、多田と沢井の他には
殆
(
ほとん
)
ど懐かなかった。 その日は、珍しく多田が事務所を留守にしていたので、構成員たちは、これさいわいとばかりに幸にちょっかいを出す。 「幸、こっちに来いよ」 構成員の一人がしゃがんで手を広げるが、幸は
沢井
(
さわい
)
の後ろに隠れてしまう。 それを見て、他の構成員が笑いながらたしなめる。 「お前の顔が怖いんだよ。幸。こっちのお兄さんのところにおいで」 そして、その構成員が幸を呼ぶが、沢井の服を握りしめて動こうともしなかった。 「幸が怖がってるだろ」 沢井は男たちを
睨
(
にら
)
みつけたが、幸に懐かれているのは満更でもない。 「沢井さん、どうやって手懐けたんですか?」 幸に振られた構成員が、恨めしそうに沢井を見る。 「人徳だよ」 それに、沢井が自慢げに答えると、そのあまりの似合わなさに思わず失笑する者がいた。 「誰だ! 今、笑ったのは!」 構成員たちは、言われて、しれっとした顔で視線を外した。 そうして、事務所で騒いでいると、多田が一人の小太りな青年を連れて帰って来た。 男は密売組織の仕事の手伝いをしている、ハッカーの
結城保
(
ゆうきたもつ
)
だ。 結城の仕事は、主に警備システムの妨害と電子ロックの解除で、たまに現場に行く事もあるが、殆どの仕事は自宅でやっている。 だから、結城を事務所に連れて来るのは珍しい事だった。 「ボス、お帰りなさい」 「ああ」 手を挙げて挨拶をする多田の後ろから、結城は携帯端末を抱えてひょこひょことついて来る。 そして、幸いるのを見つけ、不思議そうな顔をした。 「多田さんの子供?」 「まさか」 多田は、結城の冗談を一笑に付すと、幸に顔を向ける。 「幸、おいで」 呼ばれると、幸は沢井の背中を離れて、多田に駆け寄った。 しかし、結城の事が気になるらしく、多田のところに行ったはいいが、戸惑ってもじもじしている。 多田はその様子を見て、幸の頭を軽く叩いた。 「紹介しとこう。この子はうちの鍵職人だ」 幸は、多田に紹介されて、結城にぺこりと頭を下げる。 それを見て、多田は結城を雑に紹介する。 「で、幸。こっちが電子ロック解除職人の結城だ」 「なんかその紹介嫌だなあ」 結城は多田の紹介に頭をかくが、すぐに話題を変える。 「それより、こんな子供が鍵屋って、そんなに人手不足なの?」 しかし、多田はそれを鼻で笑う。 「幸はうちで雇った中で一番の腕前だよ」 「へえ。多田さんが節操なく手を出しているだけかと思った」 「結城!」 沢井は、結城があまりにも多田に失礼な態度をとる事に我慢出来なくなり、声を上げて掴みかかろうとした。 しかし、多田はそれをやんわりと止める。 「いいさ。間違ってない。私のお気に入りだ」 多田はそう言うと、目の前で幸に口付けた。 それを見て、結城が下手くそな口笛を吹く。 「官能的なキスシーンをありがとう」 あまりにもふざけた態度に、沢井は結城を睨みつけが、多田は一向に気にしたふうもない。 多田は沢井の肩を叩いてなだめると、結城に向き直る。 「折角だ。幸に電子ロックの解除を教えてやってくれないか?」 そう言われて、結城は驚いて目を見開く。 「僕のテクニックをこの子に教える気はないし、教えたところで理解出来ないでしょ」 「理解出来ないと思うなら、教えても問題ないだろう。ちょっと試してみたらどうだ?」 多田はそう言ったが、プログラムなど幸が分かる筈もないのを承知で、
戯
(
たわむ
)
れに提案したみただけだ。 「いいよ。じゃあ、こっちに……」 しかし、結城が幸を呼ぶが、多田に引っ付いたまま離れようともしない。 「これは教える以前の問題だね」 これには多田も苦笑するしかない。 「あのおじさんが新しい鍵の開け方を教えてくれるそうだ。行ってごらん」 「お兄さんね!」 結城はすぐさま訂正した。 「結城さん?」 幸が多田の背中から少し顔を出す。 「お、名前覚えてくれてるの? 可愛いね。おいで」 結城はおいでおいでと手で招く。 幸はビクビクしながらも、鍵の開け方を教えて貰えると聞いて結城の元に行った。 「これは商売道具だから」 結城はそう言って他の人を遠ざけると、幸と二人で席について、テーブルに端末を置いた。 「多田さん、なにか教材になりそうなのないの?」 多田が沢井に目配せすると、簡単なカードキーのついた箱を渡した。 「ほら」 沢井が差し出すと、結城は立ち上がってそれを受け取る。 「本当に子供騙しだね」 結城は可笑しそうに笑いながら、箱を持って席に戻った。 「幸ちゃん、まずお兄さんがお手本見せるね〜」 結城が手本を見せるのを、幸は目を輝かせて見つめていた。 結城はどうせ無理だろうと
鷹
(
たか
)
を
括
(
くく
)
っていたが、幸は一回教えただけで、簡単に電子ロックを解除してしまった。 「お手上げ!」 結城は手を挙げて、降参とばかりに声を出す。 「簡単っちゃあ簡単だけど、なんの知識もないのに一発で開けるとか、この子何者? 他にもっと難しいの……ってないよね?」 多田は、幸が開けるとは思っていなかったので、あっさり成功させてしまった事に舌を巻いた。 「で? どうだ?」 多田に聞かれて結城は顔を歪める。 「これでアナログの鍵も開けられるんでしょ? 教えたら大泥棒になれるかもね」 「じゃあ、しばらく通って教えてくれ」 結城の軽口に多田が真面目に返す。 「え?」 「ちゃんと授業料は払うが、どうだ?」 それに、結城は少し考えてから幸を見た。 「じゃあ、僕の手の内は晒した訳だから、次は幸ちゃんの腕前を見せて貰わないと」 「それはいいが、鍵はどうする?」 幸が事務所で開け方を知っているのは、幸が初めに開けた金庫ひとつきりだが、教えていないと言っても結城は信じないだろう。 「あー、んー」 結城はそれに気付いて頭を悩ませる。 そして、しばらく考えてから、結城が閃いたというように両手をぽんと叩いた。 「どっかに侵入して腕試しをしよう」
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汐なぎ
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