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第三章(十七)幸の腕前

 結城(ゆうき)は何処かに侵入しようと言っていたが、(みゆき)の腕を披露する為だけに仕事をする訳にはいかない。  多田(ただ)はどうするか考えて、結城に手頃な金庫なりを用意させて、幸に開けさせる事にした。  そして数日後、結城は大きな金庫を荷台に乗せて、事務所にやって来た。 「ちわーっす。幸ちゃんいる?」  結城が声をかけると、執務室から幸が顔をのぞかせる。  多田は結城がアポなしで来たので焦ったが、タイミング良く今日はまだ幸を抱いてはいなかった。 「幸じゃなくて私に挨拶しろ」  多田はそう言うと、結城に執務室に入るよう手で合図をする。 「多田さんもこんにちは」  結城は取ってつけたように挨拶をすると、金庫を押して入って来た。  そして、金庫を指差し幸に尋ねる。 「これ、開けられる?」  結城が金庫を置くと、幸が目を輝かせながら寄って来た。  しかし、幸は道具を持っていなかった事に気付き、慌てて道具箱を取りに戻る。  それから、もう一度仕切り直すと、幸は金庫をじっと見つめた。  金庫は鍵穴とダイヤルのある普通の金庫だ。 「出来る?」 「はい」  聞かれて幸は即答した。 「じゃあ時間計っとくね」  結城はストップウォッチをセットすると、幸の真横に陣取った。  幸は気にする様子もなく、鍵穴をカチカチとつつくと、そのままダイヤルを回し始めた。  音と手の感触とで探りながら番号を拾って行く。 「どう?」  結城が幸に声をかけるのを多田が(にら)みつける。 「邪魔になるから黙れ」 「はーい」  結城は仕方なく、ぼんやりと幸の手元に視線を向ける。  そして、退屈になって結城が欠伸(あくび)をしかけた時「カチリ」と音が鳴った。 「開きました」  幸は綺麗な顔で笑う。  その笑顔が余りにも魅力的で、結城は思わず見惚れてしまった。 「結城!」  結城は多田に呼ばれて我に返り、慌ててタイマーを止めた。 「時間は?」 「六分あたり?」  結城は時計を多田の方に向ける。  辺りと言うのは、結城が止めるのが遅れて、正確な時間が分からなかったからだ。 「どうだ。凄いだろう」  言われて結城は頷いた。 「よく分かったよ。多田さんが気に入る訳だ。思わず笑いかけられた時、押し倒そうかと思った」  結城の軽口に多田が眉を顰める。 「おい」 「冗談だよ」  結城は嘘とも本気ともつかない口調で返した。 「でも分かったよ。依頼は請けるよ。教えればいいんだろう? 個室で二人きりでもいい?」  流石に多田もこれには腹を立て、椅子から勢いよく立ち上がった。 「人をからかうのもいい加減にしろ!」  しかし、結城はそれでも悪びれずに幸に抱きつく。 「今日から僕もロリコンに転向しよう」 「男だ」  多田は押し殺した声でそう告げた。 「へ?」  多田に言われて、結城は何の事か分からず間の抜けた声を出した。  しかし、多田は気にする事もなく、幸を結城から引き剥がして傍に引き寄せた。 「幸は男の子だ」 「へ?」 「また後日、日程は決めよう。今日は帰って貰えるかな」  多田は険しい顔つきで結城を見た。 「男の子でも……」 「帰れ!」  多田はいつまでも巫山戯(ふざけ)倒そうとする結城を睨みつけて追い出す。 「金庫も持って行け!」  多田は結城を追い出すと鍵を閉めると、感情の読み取れない声で幸を呼ぶ。 「幸」 「はい」  呼ばれて幸が答えると、多田は乱暴にソファに投げ飛ばす。  それから、傍まで歩いて行くと幸の(あご)を取った。 「あんな笑顔は私にだけ向けていればいいんだよ」  多田はそう言うと、幸の服を乱暴に脱がせる。 「しっかりと、その体に教え込んでやろう」  そして、多田は背広をデスクにかけると、幸に覆いかぶさり、乱暴に突き入れた。

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