fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
幸福論 第三章(二十一)愚かさと愛しさ | 汐なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
幸福論
第三章(二十一)愚かさと愛しさ
作者:
汐なぎ
ビューワー設定
63 / 103
第三章(二十一)愚かさと愛しさ
沢井
(
さわい
)
が呼ばれて執務室に入ると、案の定ボロボロになった
幸
(
みゆき
)
が横たわっていた。 意識はあるが、目は涙で
滲
(
にじ
)
み、足の間には赤い液体が
滴
(
したた
)
っている。 「沢井」 沢井が幸に手をかけようとすると、急に
多田
(
ただ
)
に声をかけられた。 「はい」 返事をして、沢井が向き直ると、多田は
嘲笑
(
あざわら
)
うように言った。 「幸に惚れるなよ」 「え?」 思わず、沢井は聞き返してしまった。 「聞こえなかったか?」 「聞こえました。ただ、何を言われたのか分からなくて」 実際、沢井は幸に手を出しこそすれ、愛情などこれっぽっちも持っていなかったのだ。 「分からないならいい。ただ、忘れないようにな」 「はい、分かりました」 沢井は幸を抱えあげると、一礼して執務室を後にした。 沢井は帰りの車内で、執務室での事を考えた。 いくら
牽制
(
けんせい
)
するにしても、惚れるなと言った多田の本心が分からない。 だが、沢井には思い当たる節がない訳でもなかった。 幸は執務室に行く前に、沢井の方を
縋
(
すが
)
るような目で見ていた。 それを多田が
見咎
(
みとが
)
めたのであれば、幸の沢井に対する気持ちに気付いた筈だ。 独占欲の強い多田が、お気に入りである幸が他の相手に
懸想
(
けそう
)
しているとなれば、面白い筈がない。 「幸、起きてるか?」 助手席に話しかけると、幸が潤んだ目で沢井を見た。 「ボスに何か言ったか?」 「何も……」 幸は話すのもつらそうだったが、下手をすると沢井の身も危険になるのだから、今のうちに聞いておかなくてはならない。 沢井が幸に、毎日のように「愛してる」と言っている事が、多田に伝わっていたら堪らない。 まかり間違って、沢井が幸の事を本当に愛しているなどと勘違いされたら、何をされるか分かったものではないのだ。 「俺との関係について何か聞かれたか?」 沢井に聞かれて、幸は首を横に振った。 「好きかと聞かれたけれど、何も答えませんでした」 「そうか」 それを聞いて、幸が変な事を言っていなかった事に、沢井はひとまず胸を
撫
(
な
)
で下ろした。 沢井は幸の事を愚かだと思っていたが、そこまで馬鹿ではなかったようだ。 「俺との事はボスには絶対に内緒だよ」 沢井が念を押すと、幸は小さく
頷
(
うなず
)
いた。 多田に乱暴された後の幸の体を洗うのは、
専
(
もっぱ
)
ら沢井の仕事になっていた。 そして、どんなに幸が傷付いて疲れ果てていようと、風呂場で犯すのだ。 沢井は幸の手を壁に付けさせて、その体に舌を
這
(
は
)
わせた。 幸の体には、多田との情事の名残の
痕
(
あと
)
が無数に散っている。 その痕は幸の白い肌に映えて
扇情的
(
せんじょうてき
)
で、沢井は興奮を抑える事が出来なかった。 「幸。堪らないよ」 沢井はボディソープを幸の後ろに塗りつけた。 「つっ」 多田に攻められた傷に染みたのだろう。 逃げようとする幸の腰をとると、沢井は構わず挿入した。 「幸、愛してるよ」 「あっ」 幸はどんなにつらかろうと、いつもその言葉を聞くと大人しく身を任せた。 「気持ちいいかい?」 「はい……」 傷だらけの場所を攻められて気持ちいい筈はないが、それでも幸は沢井と繋がっている事に喜びを感じていた。 沢井に愛を
囁
(
ささや
)
かれながらする行為は、幸にとって特別な意味があったのだ。 「可愛いな」 「沢井……さん。愛して……ます」 沢井は幸を背中から抱き締めて、首筋に舌を
這
(
は
)
わせた。 「俺も愛してる」 「ああっ」 最早、幸には痛みなのか快感なのかも分からないものに貫かれて、声が出るのを止める事が出来なかった。 多田の調教の賜物なのか、幸の体はどんどん淫らになって行く。 しかし、どんなに抱かれても魂まで
穢
(
けが
)
れる事はなかったらしく、幸は抱かれていない時は、色気がありこそすれ、いつまでも純真な子供のように見えた。 沢井にはそれが堪らなかったし、多田もそれが気に入っているに違いない。 しかし、沢井は、幸は多田に、ここまで乱れる姿を見せてはいないだろうと思った。 それが、沢井の性欲を刺激し、もっと幸の淫らな姿が見たいと言う欲望が
募
(
つの
)
っていく。 沢井は、多田が幸に無理をさせる理由が、今なら分かる気がした。 そして、沢井は
悶
(
もだ
)
える幸を更に攻め立てる。 「あああっ」 幸は、何度も何度も絶頂に達し、とうとう足に力が入らなくなった。 そして、沢井は、幸が壁から滑り落ちそうになるのを抱き止める。 すると、幸は沢井の腕にしっかりと縋り付いた。 「もう少し我慢してくれ」 沢井は止められず、幸に腰を激しく打ちつける。 「もう……」 幸が限界を迎えた辺りで、沢井は精を吐き出すと、抱き止めていた手を離す。 支えを失った幸は、風呂場の床に倒れ込んで、苦しそうに肩を上下させていた。 沢井は再び幸を助け起こすと、情事の後を綺麗に流す。 「ベッドに行こうか」 そして、沢井は幸を抱えるようにして風呂場から出た。 部屋に着くとすぐ、沢井は幸をベッドに寝かせたが、意識は
半
(
なか
)
ば以上飛んでいるようだった。 沢井は、いくらなんでも無理をさせ過ぎたと思い、心配になって名を呼んでみる。 「幸……」 すると、幸は
薄
(
うっす
)
らと目を開けて、唇だけで沢井の名を呼んだ。 沢井は自分の方に伸ばされた幸の手を握る。 幸は堪らなく愛おしかった。 沢井は、鎮まっていた欲望が、再び込み上げて来るのを感じた。 「いいか?」 尋ねると、幸は優しく微笑んで小さく
頷
(
うなず
)
いた。 もう、初め来た頃のように何も知らない子供ではないのだから、幸もその意味は十分に分かっている筈だ。 それでも頷いたという事は、沢井の好きなようしていいという事だろう。 こんな目にあっても、本気で沢井が自分を好きだと思っているとしたら、愚か以外の何者でもない。 けれど、幸は健気で愚かで、堪らなく愛おしかった。 多田の事を責められないと思いながらも、このまま止める事など出来る筈もない。 「幸」 沢井は幸の手に口付けると、その足をとって体を入れた。 「愛してるよ」 その言葉は、今この時の沢井の本心だった。
前へ
63 / 103
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
汐なぎ
ログイン
しおり一覧