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第三章(二十三)トラブル

 (みゆき)は、三人の構成員と一緒に、現場の近くで待機していた。  そこに事務所からの連絡が入り、リーダーが通信を受ける。  それは、警備システムを解除したとの連絡で、システムの復旧までに、急ぎ仕事を済ませなければならない。 「準備完了だ。いくぞ」  それを合図に、車に運転手を一人残し、幸を含む三人は行動を開始した。    邸宅の地図は分かっていたので、警備システムが作動していない事もあり、目的の金庫室の前までは、問題なく辿り着く事が出来た。  リーダーは、到着するとすぐに、事務所と連絡を取ろうと端末を取り出したが、無線が全く使えない状態になっていた。 「駄目だ。回線が死んでる」  このままでは、連絡もつかなければ、電子ロックを解除する事も出来ない。 「電波妨害か? そんな事は聞いてないぞ!」  部下の構成員が声を出したのに、リーダーが声を低くしろとジェスチャーする。  それから、低い声で、自分の考えを手短に伝える。 「通信が回復する可能性は低い。このままでは扉のロックが解除出来ず、先へは進めない。警備システムが復旧する前に戻った方がいい」 「しかし、ここで引き返したら、再び侵入するのは困難だと思われます」  構成員が告げるが、内容はまさにその通りだった。  しかし、下手をして警備システムに引っかかるような事にでもなれば、組織にも多大な被害を与える事になる。  リーダーは悩んだ末、結論を出した。 「やはりここは一旦引いて……」  リーダーは言いかけてから、幸が金庫室の前で電子ロックを見つめているのに気付き、慌てて声をかける。 「おい。下手に触ったら危ないぞ」  幸はその声に振り向くと、その場の誰も想像していなかった事を言った。 「開けられると思います」 「え?」  それを聞いて、構成員が間抜けな声を出す。  しかし、声を出さなかっただけで、リーダーも気持ちは同じだった。  幸は、遠隔操作でロックを解除するのに使う予定だった端末を持っていたが、これには解除に必要なプログラムが全て入っている。  そして、どんなキーならどういうシステムを使えば解除出来るかと言う事は、既に幸の頭の中にあった。 「失敗したら終わりなんだぞ。これは子供の遊びじゃないんだ」  リーダーに注意されるが、幸は鍵を開けたくて仕方がない。  それに、手元に開ける為の道具が揃っているのだから、出来ない事などないと思っていた。  全く違うものではあるが、幸にとっては、デジタルであろうとアナログであろうと、鍵である事に違いはないのだ。 「どんな鍵か見てもいいですか? 駄目ならやめます」  幸の言葉に、リーダーともう一人は顔を見合わせた。  それは余りに危険な賭けではあったが、電子ロックがどういう仕組みなのか、調べてみてからでも遅くはないと結論付けた。 「やってみろ。だが、無理そうなら、すぐにやめるんだぞ」  リーダーが告げると、幸は小さく頷いた。  少し手間取ったが、幸は金庫室の電子ロックを開けるのに成功した。  他の二人は狐につままれたような顔をしていたが、幸は気にせず中の金庫に取りかかった。  金庫は、鍵穴は一つだが、ダイヤルが二つあり、番号を合わせるのには二倍の手間がかかる。  リーダーは金庫を見て考える。 「金庫を壊すか?」  最終手段ではあるが、今までのタイムロスもあり、時間がかかるならそうするしかないと、リーダーは考えた。  それに、壊すと言ってもそれなりに時間がかかるので、決断は早いに越した事はない。 「幸。無理なら金庫を壊してくれ」  しかし、幸はダイヤルを回す手を止めようとはしなかった。 「幸……」  リーダーが再び声をかけた時、幸の手元で「カチリ」と音がして金庫が開いた。 「凄いな」  感心して幸を見ている構成員をリーダーが叱責する。 「そんな事より仕事が先だ」 「あ、はい」  リーダーが作業にかかると、もう一人も追従(ついじゅう)し、二人で中から必要な物を取り出すと、何もなかったように金庫の扉を閉めて鍵をかけた。  実行部隊は、通信可能なところまで戻ると、事務所に連絡を入れ、仕事の首尾について報告した。  電波妨害で通信が出来なかった事、幸が金庫室のロックを解除した事、金庫の中の物も無事、回収出来た事。  事務所への報告を手短に済ませると、今度は車と連絡を取る。 「無事終わったので、そちらに向かう」  リーダーは、それだけ言って通信を切ると、車が待機している地点に急ぎ合流して、そのまま現場を後にした。

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