fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
幸福論 第三章(三十四)弁護士 | 汐なぎの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
幸福論
第三章(三十四)弁護士
作者:
汐なぎ
ビューワー設定
76 / 103
第三章(三十四)弁護士
川上
(
かわかみ
)
が、今回の件を依頼したのは、
三枝尚
(
さえぐさひさし
)
と言う弁護士だった。 三枝は、スラリとした体型をした整った顔立ちの男だ。 見た目が年齢より若く見える
為
(
ため
)
、まだ駆け出しと思われる事も多いが、請ける依頼に関しては、ほぼ負けなしという
凄腕
(
すごうで
)
の弁護士である。 そして、三枝は、犯罪に
抵触
(
ていしょく
)
しない範囲であれば、報酬次第でどんな依頼も引き受ける。 川上とって、三枝の方針は
都合
(
つごう
)
が良かったし、何よりその腕を信頼してもいたので、よく仕事を依頼していた。 しかし、三枝はと言うと、川上にあまりいい印象を持ってはいなかった。 川上については、ついぞいい
噂
(
うわさ
)
は聞いた事がない。
嘘
(
うそ
)
か本当か、その
少年趣味
(
しょうねんしゅみ
)
は
界隈
(
かいわい
)
では有名な話だったし、他にも
賄賂
(
わいろ
)
や
殺人教唆
(
さつじんきょうさ
)
、
自動売春
(
じどうばいしゅん
)
脅迫など、
列挙
(
れっきょ
)
にいとまがなかった。 確かに、三枝は
幾度
(
いくど
)
も川上からの依頼を請けてはいるが、どれもいかがわしい物ばかりだ。 それでも、三枝が川上の依頼を請けるのには理由がある。 それは、依頼料が高い事も理由の一つだが、主な理由は川上のコネクションだ。 今回の依頼も、貴金属を盗まれた財界の権力者と、密売組織との
示談
(
じだん
)
を進めて欲しいというもので、後暗い匂いがプンプンする。 表向きは、密売組織に縁のある
日下
(
くさか
)
が一人で
窃盗
(
せっとう
)
に入ったのだが、組織の内部に捜査が入ると面倒だから、
穏便
(
おんびん
)
にすませたいと言う事だった。 しかし、これだけの仕事を一人で出来るとは
到底
(
とうてい
)
思えないし、今回の件に密売組織が絡んでいるのは
明白
(
めいはく
)
だったが、三枝にとっては、裏の事情など知らない方が都合がいい。 三枝は、先方に着くとすぐ、応接室に通された。 いつもなら示談金の
交渉
(
こうしょう
)
がまとまれば、何事もなく解決するであろう案件なのだが、相手がゴネてなかなか話が進まない。 相手は裏に川上がいると分かっているのだ。 三枝は、相手と面識はあるので、川上の件がなくても、元々
一筋縄
(
ひとすじなわ
)
では行かないのは分かっている。 盗んだ金品の変換と、示談金の支払いで許して
貰
(
もら
)
おうと交渉するが、有り得ない金額を
提示
(
ていじ
)
して来て話にならない。 このままでは交渉決裂となりかねないが、先方がプライドを優先するのであれば、三枝にもまだ手はある。 それに、先方はまだ
告訴
(
こくそ
)
はせず、話し合いにも応じてくれているのだ。 しかし、これ以上、交渉に時間をかけるのは得策ではない。 早めに日下に
自首
(
じしゅ
)
させた方が、組織への捜査が
緩
(
ゆる
)
む可能性も高いのだ。 三枝は、考えた末、先方の
矜持
(
きょうじ
)
が保てる提案をする。 すると、相手はやっと首を縦に振った。 はじめから先方も、川上と事を構えるのが得策でないのは承知しており、落とし所を考えていたところだったのだ。 三枝は、ただ、それを提供したに過ぎない。 以降はスムーズに事が運び、こちらからは、金品の返却と相場通りの示談金を支払う事で合意した。 三枝は、川上に連絡してから、密売組織の事務所へと向かった。 事務所に着くと、三枝は
多田
(
ただ
)
と日下の待つ執務室へ通された。 三枝は形式的に軽い自己紹介をすませると、早速本題に入る。 示談の内容は前もって連絡していた事もあり、話し合いは簡単に終わった。 日下にはすぐにでも自首して貰い、後は
黙秘
(
もくひ
)
を続け、
都度
(
つど
)
、三枝に何を答えるか確認する
手筈
(
てはず
)
だ。 密売組織の件については、川上も承知している事なので、根回しはして貰える。
胡散臭
(
うさんくさ
)
い話ではあるが、密売組織の犯罪の証拠がない以上、やってないと言われるのであれば、三枝はそれを信じるだけだ。 打ち合わせが終わると、三枝は日下を自首させる為に、二人で連れ立って警察に向かった。 三枝が出て行くと、
沢井
(
さわい
)
が急いで執務室に入って来た。 「ボス。それで、話はどうなりましたか?」 沢井は、部屋に入ると、開口一番こう言った。 多田は、その様子を見て鼻で笑う。 「話じゃなくて、お前が気になるのは幸の事だろう?」 「まさか。気になるのは組織の事に決まってるじゃないですか」 多田はそれを聞いて、沢井にソファに座るように命じた。 沢井は落ち着かない様子だったが、指示されるままに腰を下ろす。 それを確認してから、多田はゆっくりと口を開いた。 「日下に自首して貰う事になった」 「自首?」 沢井は聞き返す。 日下に罪を着せるにしても、取り調べで組織の事を黙っているとは、沢井にはとても思えなかったのだ。 言わなくとも、沢井の考えは態度に出ていたので、多田はすぐに察して、それに続く答えを返す。 「何、問題はない。日下には刑期が開ければ金をやる事になっている。
守銭奴
(
しゅせんど
)
の日下なら約束は守るだろう。それに、喋ったらどうなるかは、しっかり分からせてあるからな」 多田は黒い笑みを浮かべてから沢井を見る。 「それで? 幸の事は聞かなくていいのか?」 聞かれて、沢井は胸が
騒
(
ざわ
)
めいた。 確かに、幸の事が気になってはいたが、まさかいきなり指摘されるとは思ってもみなかった。 しかし、数日前に幸の事で取り乱していたのだから、多田にバレていたとしても仕方がない。 今は聞くべきではないと分かっていたが、沢井はどうしても、幸の事を聞かずにはいられなかった。 「幸……というか、幸の仕事がどうなったのかは気になりますが……」 沢井は聞くと言っても、多田の手前、煮え切らない言い方になる。 多田は、沢井の様子を観察しながら、ゆっくりと答えた。 「川上先生はいたく幸を気に入っているようで、実にスムーズに事を進めて貰えたよ」 沢井は、幸がヘマをしでかしてなくて良かったと思ったが、同時に、気に入っているというのがどういう状態なのか少し不安になった。 気に入って優しく可愛がって貰えているのならいいが、酷い事をされている可能性もある。 「それで、幸……」 沢井が更に
尋
(
たず
)
ねようとするのを多田が手で
遮
(
さえぎ
)
った。 「もういいだろう。それとも、幸に
惚
(
ほ
)
れたのか?」 「まさか。ボスのお気に入りに手を出すつもりなどありませんよ」 沢井も、幸の面倒をみていた手前、情は移っている。 確かに、心配なのは事実だが、沢井自身、幸に惚れているなどと思った事はなかったので、多田に言われて
戸惑
(
とまど
)
った。 「どうだかな」 しかし、多田は沢井の言葉を鼻で笑い飛ばした。
前へ
76 / 103
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
汐なぎ
ログイン
しおり一覧